フラット革命 (佐々木俊尚)

フラット革命 フラット革命は、「グーグル – Google 既存のビジネスを破壊する」や「ウェブ2.0は夢か現実か?」等で有名な佐々木俊尚さんの新刊です。
 最初はタイトルから、てっきりトーマス・フリードマンのフラット化する世界を日本向けに分かりやすくしたような内容かと思ってしまったのですが、違いました。
 この本は、インターネットによるフラット革命が、日本社会にどのような影響を与えるのか、これまでジャーナリストとして日本やインターネットを見続けてきた佐々木俊尚さんの視点から深く掘り下げた一冊です。
 トーマス・フリードマンの本はグローバルに起こっている出来事が客観的にまとめられて私も大きな影響を受けましたが、ある意味他人事のように感じられてしまったのも事実。
 でも、このフラット革命で描かれているのは、現在進行形の日本の話です。
 
 特にこの本が貴重なのは、様々な立場の人たちに実際に取材を行い、それを一つの本の中で綴っていることでしょう。
 一口にフラット革命といっても、それによって発生している現象は一口では言い表せないことを、この本に出てくる一人一人の声が明らかにしていくように感じます。


 佐々木さんは「グーグル – Google 既存のビジネスを破壊する」以降、すごい勢いで本を出しまくっているのですが、この一冊は明らかに別格です。 
 日本のインターネットに関わるすべての人に、佐々木さんが感じている疑問や違和感、そして期待をぶつけてきているように感じます。
 以前佐々木さんに話を聞いたとき、佐々木さんは普通本を一冊書くのに一ヶ月かからないとはっきり言っていました。それがこの本に限っては「二〇〇六年秋に、おおむねの取材を終え、最初の文字をうつまでに三ヶ月、原稿が完成するまでにさらに三ヶ月」かかったとのこと。
 読んでみてなるほど納得です。
 もちろん、この本の中に日本のインターネットの未来に対する答えが書いてあるわけではないのですが、少なくともヒントやきっかけとなるものが、たくさんちりばめられているように思います。
 あとは、それを読んだ日本のインターネット参加者である私たち一人一人がどうするのか。
 それを一緒に議論していくためにも、是非多くの人に読んでほしい一冊です。
【読書メモ】
■情報のオープン化に対するマスコミの拒絶反応
 「新聞には責任があるが、個人には責任がない」
■マスメディアの三つの危機
・匿名言論の出現
・取材の可視化
・ブログ論断の出現
■新聞社の中枢を担う世代の典型的な愚痴
「今どきの若い記者は、グーグルで情報収集していてけしからん。簡単にネットで検索して調べ物をしただけで記事を書いているから、内容が薄くなるのだ」
「ブログは、取材もしないで一次情報を新聞社のウェブサイトから引っ張ってきているだけで、フリーライドじゃないのか。だいたい現場も知らないで、そんなに深いことが書けるわけがないだろう」
■ブログとマスメディアの決定的な違い
・マスメディアは社会全体を構成している<われわれ>を代表している
・ブログというのはどこまでいっても<わたし>という個人が書くもの
→ブログ空間は身も蓋もなく圧倒的な本音の世界を現出させることができる
■戦後社会の崩壊
・同心円的なコミュニティで守られていた人々をコミュニティから解き放ち、一部で自立した人間とオープンな人間関係を生み出した。
・同時に、どこにも帰属できず、どこにも頼ることのできないよるべない人々を大量に出現させた。
■戦後社会を終わらせた五つの要因
・グローバリゼーション:単純労働に就いていた人が仕事を失い、収入を減らす
・人口構成の変化:若者よりも高齢者の方が多くなり、年功序列と終身雇用が破綻
・雇用の市場化:優秀な人たちは自分自身で働ける場所を自由に選べる
・格差社会化:標準家庭などの等質性の喪失
・日本社会の精神性の変容:冷戦の終結によるナショナルアイデンティティの見直し
■同心円社会から異心円
 自分自身がどのような立ち位置にいて、数多く存在するさまざまなコミュニティにそれぞれどのようにつながっているのかを、自分自身で確認しなければならなくなった。
■インターネットというアーキテクチャーの魔力
・世界に向けて自分を公開し、その混じりあった場所では、<公>と<わたし>が混じりあう。
・<わたし>の集合体は、永遠に<公>にはつながっていかないのだろうか?
■インターネットの世界においては、コミュニケーションそのものがジャーナリズムとなり、言論のパワーとなる。
 インターネットの本質は、単体の記事の中にではなく、記事同士が影響しあう、その共鳴の中に存在している。
■星座作用
 ひとつのイメージが予想もしていなかった別のイメージを喚起するような現象
■人間関係の相対性理論
 ミクシィの人間関係は、空間のみならず時間までをも跳躍し、時空を超えた人間関係を生み出している。
■サイバーの世界では、いったん嫌いになったら関係の修復ができない(西和彦)
 
■「インターネットの特徴は、嘘の噂をバラ蒔くこともできれば、偽善を暴露することもできることである。だが同時に、信用できそうな情報を膨大な数の人たちに送れることは、恐怖、誤解、そして混乱の元凶になりうることを意味する。」
(「インターネットは民主主義の敵か」キャス・サンスティーン)
■<わたし>たちの集合体全体の<公>
 一連の情報のやりとりの課程そのものが、社会を構成する<わたし>たち全員の前に、可視化されているということ。
 そのやりとりに<わたし>のだれもが参加し、評価し、非難し、批判し、分析できるような仕組みがオープンなかたちで提示されていること。
■自分への批判を、決して恐れてはならない
 一般の人々から批判され、自分の言論をまな板の上に乗せる覚悟を持てない言論人は、もう消えていくしかないのだ。(中略)
 批判、それに対する反論、そして再反論、そうした議論のすべてが可視化されていくことこそが、新たな公共性を生み出していくのだ。
■ラディカルな民主主義 (「民主主義の逆説」シャンタル・ムフ)
 対抗する人たちの間に「友愛」は必要としない。友愛ではなく、議論し、闘い続けるというその同じ基盤を共有することが、、最も重要なことなのだ。

フラット革命 フラット革命
佐々木 俊尚

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