クチコミと広告の境界が問題なのではなく、利用者を騙そうとしているかどうかが問題だと思う

 先月、いろいろとあまりに長文のエントリーを書いて、すっかりヒンシュクをかってしまった、マーケティングの倫理とか境界線についての議論ですが。
 正直、もう飽きた人も多いと思うので、書くのをやめようかと思っていたところ、CNETさんでお題を出されてしまっているのを見つけてしまい、引くに引けなくなってしまったので、ちょっと個人的な考えを書いておきたいと思います。
口コミと広告の差はどこにある?:CNET Japan オンラインパネルディスカッション
 まず、このお題の元となっている、WOMマーケティング協議会設立準備会(以下WOMJ)でも研究会の参加前のアンケートとして実施していた「クチコミと広告の境界線はどこにあると思いますか?」という質問についてですが。
 実は個人的には、この質問の正解を考えること自体には、あまり意味がないと思っています。
 以前「ペイパーポストかどうかが問題ではなく、読者にどう受け止められるかが問題だと思う」というエントリーで書いたように。
 クチコミマーケティングだろうが、広告だろうが、PRだろうが、最終的には利用者がどう受け止めるかが問題であって、元々の手法が何かというのは関係ないと思っているからで。
 どちらかというと、今回の問題設定をきっかけに、そういう根本の議論を参加者の皆さんとしたかった、というのが正直なところです。
 過去のエントリーでも、何度か下記のマーケティング手法の分類の図を紹介していますが
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 個人的には、全ての手法は、企業が何らかの仕掛けで発生させようとしている限り、企業の「宣伝行為」であり、広い意味での「広告」と見なされる行為だと思っています。
 金銭的対価が発生する記事広告はもともと広告ですが、サンプル配布やモニターにしても書き手にメリットを提供しているという意味で、「バーター広告」とでも呼ぶべき状況にあると考えていますし、「イベント」にしても参加者が企業から厚遇されていると読者に思われれば、その記事は企業の「広告」と捉えられることはありえます。
 ある意味「紹介」と分類している部分についても、例えばある企業が取引先に勤めているブロガーに「書いてくれ」と暗に圧力をかけたとしたら、その事実が発覚したときに、その記事は実は提灯記事だったということが判明することになるわけで。
 広い意味で読者にとっては「広告」だったと言われることになりえます。
 まぁ、さすがに紹介レベルでそこまで言い出すと、あまりに細かすぎる気がするので、あえて表でカバーしたリスクのある範囲としては外していますが、海外のブログで良く書かれているように、via ○○という記載で情報を知ったルートを紹介するというのも、一つの情報開示としては重要なのではないかと思ったりもします。
 いずれにしても、企業側がクチコミと意識して実施している手法であっても、利用者に企業の宣伝として実施していると受け取られてしまったら、結局それは宣伝であり、広告なんだと感じています。


 まぁ、そもそもクチコミというものは、何もクチコミマーケティングだけから発生するものではなく、製品やサービスだけから発生することもあれば、PRの成果として発生することもありますし、テレビCMや新聞広告などをきっかけに発生するクチコミもあります。
 結局、クチコミというものは、そういった様々なマーケティング活動とか、製品やサービスの開発の努力の結果や、いろんな環境とかタイミングの積み重ねで発生するもので。
 本来は、テレビCMにしろ、ネット上の広告にしろ、何らかのクチコミ効果を期待して実施していたはず。
 そう言う意味で、個人的には、クチコミと広告はある意味コインの表と裏のような関係だと思っていて、クチコミだから良いとか、広告だから悪いとか、そういう話ではないように感じているのです。
 
 実際、昨日ご紹介した「戦略PR」でも、「PRと広告の違いなんて消えていく」と書かれていますが、従来の手法の境界線が意味がなくなりつつあるのを、最近ますます強く感じます。
 
 ただ、クチコミと広告の境界線の話とは別に、明らかに問題があるラインと感じているのは、何度か書いているように、そういった企業の宣伝行為であることを隠そうとするステルスマーケティングです。
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 ステルスマーケティングと書くと、格好いい新手のマーケティング手法かと思う人もいるみたいですが、いわゆるヤラセ行為であり、サクラ記事であり、極端な話、詐欺にあたると感じる人もいるはずです、 
 企業から報酬を受け取っている広告であることを隠して自然なクチコミであるかのように振る舞うのは、明らかに読者や利用者を騙す行為ですし、倫理的にも確実に問題があるはず。
 これは別にいわゆる「広告」手法だけでなく、クチコミマーケやPRの手法でも背景は同じで。
 ペイパーポストの定義が広告だろうがクチコミだろうが、お金をもらっていることを書き手が黙っていれば読み手を騙す行為ですし、サンプルを無料で配布したのに、書き手がそのことを黙ってまるで買ったかのように書けば、それも同じく読者を騙す行為。
 同じようにばれたら読者の反発を買うリスクの高い行為だと思います。
 そう言う意味で、個人的にはマーケティングを行う上で重要なのは、その手法がクチコミか広告かという点ではなく、読者を騙そうとしていないかどうかという点だと思っているわけです。
 ちなみに、この話を考える上で個人的に印象に残っているのが、米国のPayPerPost社の社長とJason Calacanisがポッドキャスティングのインタビューで行っていた議論
 PayPerPostの社長が「広告であるのは開示しないのは、映画とかテレビのプロダクトプレイスメントも一緒じゃないか」と強調していて、完全に議論が平行線になっていたのが今でも印象に残っています。
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(あまりに議論が平行線で、最後にJasonがPayPerPostの社長のおでこを200ドルぐらい(だったかな)で買って、広告にしてしまうと言うオチがついていたりするのが、すごいです。)
 で、その後、米国においては、FTCが「プロダクトの口コミによるプロモーションを行い、口コミを行った人が口コミ料を報酬として受け取る方式の マーケティングを行う企業は、その旨を明らかにしなければならない」という意見書を出したこともあり、PayPerPostも広告明示義務の方向でいくわけですが。
 同様の議論は日本でもあって、例えば雑誌においても記事広告と分かりづらい記事広告や、特集記事が増えているそうですし、テレビにおいても番組の中で明らかに製品の宣伝と思われるコーナーが唐突に増えたりするケースが、増えている印象があります。
 
 そういう文脈で、マスメディアがやっているのだから、ネット上で同じことをやって何が悪い、と開き直る人がいるのも、この宣伝行為の開示非開示についてすら、議論が分かれて問題が複雑に見えてしまう要因の一つでしょう。
 ただ、個人的には、そういう背景を隠して宣伝をしようとする行為自体が、インターネット以前の産物であるように感じています。
 マクドナルドの行列騒動であったり、ウォルマートのやらせブログであったり、ソニーのPSPやらせビデオ騒動であったりと、企業が宣伝であることを隠して実施した手法が、一部の利用者によって暴かれてマスメディアまで伝播する騒動に発展するケースというのは、最近増える一方です。
 インターネット以前においては、そういうサクラ手法は、例え一部の利用者にばれても、マスメディアの人たちが騒がない限り無かったことで済ますことができたのかもしれませんが、もはやそういう時代は終わろうとしていることを強く感じます。
 今回のGoogleのペイパーポスト騒動にしても、きっかけは一つのブログ記事ですし、同じように一人の個人の発言や調査がきっかけで、企業のあいまいなマーケティング手法が指摘されるケースというのは、今後きっと増えていくことでしょう。
 そうしたサクラ手法がばれてしまった時に利用者に与えるネガティブな印象を考えたら、はっきりいって企業にとってはリスクが高すぎますし、それを勧める代理店もそのリスクを企業に開示するのが義務だと思っています。
 
 
 で、それは当然、その手法を選択したメディア自身にも跳ね返ってくる問題です。
 あるある大辞典の騒動は、企業の広告としての問題ではありませんでしたが、広告であることが曖昧な番組が増えると、同様の騒動の可能性も出てくるはずです。
 そもそも、番組中の製品宣伝にしてもプロダクトプレイスメントにしても、それをやりすぎることによって、逆に純広告であるテレビCMの出稿意欲が下がってしまうという話も聞きますし、番組制作者の意欲も下がってしまう一面があるという話も聞きます。
 また、広告であることを非開示にしているマーケティング手法が増えれば、「テレビってヤラセだよね」という印象がより強くなってしまうはずで。
 それで、利用者のテレビ離れを加速してしまっては、元も子もないはずです。
 当然、同じ話はインターネットやブログにおいても言えるはずで。
 
 「ブログってヤラセだよね」って当然のように言われてしまうようになったら、ブログのクチコミだとか、ブログ市場とか、ブログ上のコミュニケーションとか、そもそも意味が無くなってしまうと思います。
 やっぱり、インターネットやブログで長く楽しもうと考えているなら、特にネットやブログでビジネスをしていこうと考えている人なら余計に、やっぱりネットやブログを使って利用者を騙そうとしてはいけない、と思うわけです。
 まぁ、「広告と明示しない宣伝の方が広告効果が高くなる」という印象こそが、最大の問題なのかもしれませんが、一方でジャパネットたかたやショップチャンネルが業績好調なことを考えると、最初から広告と宣言してしまっている広告も、面白ければ効果があると言うことなのじゃないかと思ったりして。
 1つ1つの手法がクチコミか広告かを考えるよりも、企業の宣伝と思いっきり明示されているのに、企業も利用者も一緒に盛り上がってしまうような、そんな利用者を騙さないマーケティングとかメディアとか仕組み作りを、是非真剣に議論していきたいなーと思ったりしています。
 (もちろん、ネット上でショップチャンネル的な通信販売を模索するという意味ではありません、念のため。)
※またも要点のあいまいな長文を書き終わってから気づきましたが、ペイパーポスト騒動に関してはMarkezineの河野さんの記事が良くまとまっていますので、こちらをどうぞ。
ペイパーポスト問題の本質は「消費者を欺くこと」:MarkeZine

“クチコミと広告の境界が問題なのではなく、利用者を騙そうとしているかどうかが問題だと思う” への2件のフィードバック

  1. ペイパーポスト問題の本質は「消費者を欺くこと」(河野武のセカンドオピニオン)を読んで。

    ペイパーポスト問題の本質は「消費者を欺くこと」:MarkeZine(マーケジン)
    拝見しました。
    サイバーバズさんとトレンダーズさんの件は、

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