「ヒゲのウヰスキー誕生す」は、ニッカウヰスキーの創業者であり、『日本のウイスキーの父』と呼ばれている竹鶴 政孝の一生を綴った本です。
昨年ニッカさんスポンサードで「シングルモルト余市」ブロガーミーティングを開催させていただいた際に、ニッカさんから本を頂いていたのですが、読書メモを書けてなかったので、書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
恥ずかしながら私自身は、竹鶴政孝という人については、ニッカさんのイベントを開催させて頂くまで何も知らなかったのですが、正直この本は読めば読むほど驚きの連続でした。
なにしろ、竹鶴政孝はニッカウヰスキーの創業者というだけでなく、サントリーのウイスキー事業の生みの親、つまり日本の二大ウイスキーメーカーは竹鶴政孝という同じ父親を持っているわけです。
まぁ、そんな話はウイスキー通の方には当たり前なのかもしれませんが、更に驚くのがそのウイスキー造りを学んだ経緯。
竹鶴氏が単身スコットランドに留学したのは1918年。なんと第一次世界大戦が終わった年です。
当然、渡欧の手段と言えば飛行機ではなく船。
留学という現在ではのんびりした印象を受ける単語とは、全く次元が違う挑戦です。
さらに単身、醸造所を探し、ウイスキー造りを現場で学び、自らのメモと記憶だけを頼りに日本に帰ってきて。
本当のウイスキー事業を日本で立ち上げてしまうわけです。
本田宗一郎や松下幸之助、ソニーの盛田さんと井深さんなど、戦後の起業家の本は私もいろいろ読みましたが、竹鶴政孝は、そういう人たちとはまた全く違う価値観の世界を生きた凄まじい執念の起業家だと思います。
そんな竹鶴政孝が立ち上げたニッカとサントリーのウイスキーは、いまや世界のウイスキーアワードで、本家スコットランドのウイスキーとトップを競い、シングルモルト余市1987に至っては、本家スコットランドのライバルを抑えて世界一になってしまったわけですから。
それだけでも、日本人として誇りに思ってしまうストーリーだと思います。
おかげで、個人的にも、しばらくご無沙汰だったウイスキーを、最近また楽しんで飲むようになっていたりします。
この本は、残念ながらすでに絶版になっているそうなのですが、ウイスキー愛好家の方はもちろん、信念の起業というのがどういうものかということを知りたい方は、是非読むことをお勧めします。
【読書メモ】
■蒸留が終わると蒸留釜に入って掃除しなければならない。これはだれもがいやがる仕事であるが、竹鶴はみずからその役を買って出た。
「そんなことは職工の仕事です。お客さんにやらせるわけにはいきません。」
竹鶴はその言葉を振り切って、釜に入った。こんな機会でもなければ、内部をじっくり見られはしない。
■伝えるべきは、たんにウイスキーの製造技術だけであっていいはずはない。
ウイスキー造りの伝統を受け継ぎ、心をこめて造り上げる造り手、そのウイスキーに対してふさわしい飲み方のできる飲み手、そのいずれもが誕生して初めて、ウイスキーが日本という風土に根付くのではあるまいか。
■世界の第一級の酒がすべてそうであるように、ウイスキーを造り出すのは自然の営みであり、人間はその手助けをするにすぎない。
■ウイスキー造りを闘いにたとえれば、時との闘いといってよい。
やさしいようでいて、これが難しい。新しいものへの挑戦にのみ活力を求めてきた日本社会においてはなおされである。さながら、それは子育てにも似ている。本当の愛情をいだく者でなければ、長い時を耐えて共に生きることはできないのだ。
■(戦後)国民がこぞって飢えていたように、酒好きの男たちは一様に飢えていた
こうした時代を迎え、新たに二十軒を超える酒造会社がウイスキー製造免許を得ていた。造るのはむろん、ウイスキー原酒など一滴も入らない模造ウイスキー、粗悪なアルコールを色と香りでごまかしたものにすぎなかった。戦前、鳥井信治郞や竹鶴らの努力でようやく本格ウイスキーを誕生させたウイスキー業界も、たちまちイミテーション時代に逆戻りしてしまった。
■三流ウイスキーが飛ぶように売れていたのは、事実だった。安いからである。しかし、竹鶴の考えは違った。三級ウイスキーという模造まがいのものなど、ウイスキーではない。自分は原酒をたっぷり使った本当のウイスキーしか造らない。良いものを造れば、値段は高くなって当然ではないか・・・
■スコッチをしのごうとはいうまい。しかし、いつの日かスコッチに比肩しうるウイスキーを造ってみたい。
胸の奥深くしまい、亡妻リタにしか告げたことのなかった夢も、もはや見果てぬ夢ではなくなっている。
■「わがスコットランドに四十年前、頭の良い日本青年がやってきて、一本の万年筆とノートで、英国のドル箱であるウイスキー造りの秘密を盗んでいった・・・」(ヒューム英国副首相、昭和三十七年)
むらん、このセリフは、日本のウイスキーの品質を褒めたたえた、英国流ユーモアと解するべきだろう。
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