人として正しいことを(ダヴ・シードマン)を読むと、結果さえ出せば良い社会が一時的なものだったかもしれないと思えてくるかもしれません。

4903212416 「人として正しいことを」は、「企業倫理に関するもっとも人気の高いアドバイザー」と呼ばれるダヴ・シードマンが書いた書籍です。
 献本を頂いていたのですが、遅ればせながら書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
 「人として正しいことを」という書籍のタイトルだけ見ると、自己啓発本の一種みたいに見えるかもしれませんが、これは経営者向けのビジネス本です。
 この書籍の原題は「HOW」
 現在の世の中は「WHAT」つまり何をしたかという結果が重要視される時代だったが、本質的に重要なのは「HOW]それをどのように成し遂げようとしているかだ、というのがこの書籍のテーマです。
130530how.png 
 先日ご紹介したブライアン・ソリスの「エフェクト」でも「日本企業がもう一度、”未来の企業”になるためには、商品をデザインする時代から、顧客の体験をデザインする時代に適応していかなければならない。」というフレーズがありましたが、この本でも、企業が製品やサービスで競う時代は終わり、これからは「行動の正しさ」で競う時代だという問題提起がされており、実はネットやソーシャルメディアにより情報の可視化やユーザー側の情報力向上により、企業とユーザーの関係が根本的に変わり始めている、というのが米国の有識者の共通認識なのかもしれません。
 序文を、不倫という悪印象を大いに残して、どのようにやるかという意味では失敗していたビル・クリントンが書いているというのは、個人的には反省文のように見えてつい笑ってしまったりしましたが。
 
 私個人もAMNの立ちあげに携わるにあたり、やらせやステマは絶対やらないというのを会社の倫理として決めたものの、ステマ的なサービスが流行するのを間にあたりにしたり、そういう手法を要求されることも少なくなかったため、倫理とか忘れてビジネスの結果に集中した方が会社として成功しやすいのでは無いかと悩むことも多かったのですが、この本のメッセージには勇気づけられました。
 企業の経営だけで無く、個人の生き方にも参考になる点がある本だと思いますので、倫理と結果の狭間で悩んでいることがある方には参考になる本だと思います。 
 なお、「エフェクト」や「インテンションエコノミー」を合わせて読むのもお勧めです。
【読書メモ】
■私が政府にいたころ、誰もが論じていたのは「これから何をするか?」、そして「それにいくらかけるか?」だった。だが、大統領を退任してからは、何をやりたいにせよ、それにどれだけの金額がかかるにせよ、いちばん大切なのは「人々の善意を広げて変革を進めるために、どのようにするか」だと思うようになった(ビル・クリントン)
■二つの公式
テクノロジー+人間の情熱×(まちがった考え+悪い価値観)=過激主義と世界的機能不全
テクノロジー+人間の情熱×(正しい考え+よい価値観)=世界の安定と持続可能な反映
■ウェーブは、個人がまわりの人々に働きかけることから始まる。ただし、ウェーブが続くためには、少数の人たちの生み出したエネルギーが多くの人へと流れる環境になっていなければならない。


■ウェーブの最大の強みは「楽しい」ということだ。
 いちばん意義深いのはウェーブのあとだ。試合の残りの時間、観客はそれまでよりずっと熱のこもった応援をするようになる。
■何もかもが変わった。情熱は、土地や資本と違ってゼロサムではない。こちらが増えれば、そのぶん、あちらを増やすことができる。しかも、金銭とは違って弾力的だ。
■ジャスト・ドゥ・イットの世界に生きていたころは、規則に従っていれば仕事のやり方は気にされなかった。規則に抵触しないかぎりは大目に見られた。社会は、数字で結果を残せる能力で人々を判断することに満足していた。
 だが、世界が透明性を増し、誰の目にもあなたのやり方が見えるようになるにつれ、あなたが何かをするときのHOWが、あなたがやるWHATに劣らず重要になってきた。人々と規則との関係が見え、理解できるようになったことで、にわかに、規則に従うだけでは十分ではなくなった。
■「Whatに秘密はない。秘密はHowにある。うちのモデルを知ることはできても、実行することはできない。われわれのHOWを真似するのは無理なのだよ」(ジャック・ウェルチ)
■ナッシュ均衡の課題
「製品AとBのいずれかを買う理由は、価格だけではありません。社会的、人間的な理由が少なからずからんでくる。ナッシュはそうした要素を計算に入れずに公式をつくったのです。」
■「やってもいい」から「やるべき」へ。規則から価値観へ。
 この転換は、あなたの考え方やエネルギーの向け方、意思決定の方法、ひいては目標達成の道筋に大きく影響する。
■「即時的コミュニケーションの技術によって、口コミの役割がすっかり変わった。口コミは以前は都市部に限定されていましたが、近ごろではeメールやテキストメッセージのおかげで、大陸をいくつも横断します。口コミの意味が、根本的に変わってしまったのです」(ナンシー・アトリー)
■信頼を理解するための4つのキーワードTRIP
T:TRUST(信頼)
R:RISK(リスク)
I:INNOVATION(イノベーション)
P:PROGRESS(進歩)
■企業の変化
・企業は往々にして評判をサイロとして管理し、物語として紡ごうとする。
・だがこの考えは、今日では通用しない。ネットワーク化された世界で繁栄するためには、透明性と相互のつながりによって決定づけられる経済活動のなかで機能する方法、こうした状況にもかかわらずではなく、その状況だからこそ成功する方法を見つけなくてはならない。
■企業文化、四つの基本
・価値観に基づく自己統治
・情報に基づく黙従
・絶対的服従
・無秩序と無法
■文化を通じた統治とは、すなわちHOWを通じた統治であり、絶対的服従と伝達的服従という、長年の統治システムからの大転換を意味する。これからは権力や規則で統治するのではなく、組織そのものの内側から統治する時代だ。とのときには、規則ではなく価値観がものをいう。
■リーダーシップ・フレームワーク
・ビジョンを描く
・コミュニケートして引き込む
・権限を手にして責任を負う
・計画して実行する
・連続性と継続性を築く
・にもかかわらずの精神
・複雑さと曖昧さに立ち向かう
・カリスマ的な権威を行使する
・鼓舞する
・原則に基づく
・現実を直視する
・自分の性質をよく省みる
・引き返せない地点に行く
・情熱的になる
・楽観的になる
・意義を追求する

4903212416 人として正しいことを
ダヴ・シードマン Dov Seidman ビル・クリントン(序文) Bill Clinton
海と月社 2013-03-26

by G-Tools