「成熟日本への進路」は、波頭亮さんが日本の将来について考察されている書籍です。
献本を頂いたので、書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
この本では、成熟国家となった日本が、今後どのような方向を向いて進むべきなのかという問題提起がされています。
個人的には「今の日本は金融資産の三分の二以上を五十五歳以上の年配者が寡占しており、お金持ち=高齢者という構図になっている」というあたりや、日本の官僚機構の構造的な問題の指摘のあたりに、なんともやりきれない思いを感じてしまいましたが、選挙の際の表面的な議論だけでなく、日本の構造的な問題を見つめ直してみたい人には参考になる点がある本だと思います。
【読書メモ】
■「自分は幸せだ」と思う人の比率が世界一のデンマーク(税金が所得の7割以上)
「自分で生活できない人を国が助けてあげる必要はない」と思う人の比率が世界一の日本。
■今の日本は金融資産の三分の二以上を五十五歳以上の年配者が寡占しており、お金持ち=高齢者という構図になっている
■増税によって恒常的な歳入が得られていれば、その収入を原資にして社会保障を手厚くすることもできたのに、歳入欠損を(本来、非定常的な歳入を得るための)国債の発行で賄って来たためにそのお金を恒常的支出である社会保障に使うことができず、景気対策的な項目にばかり当ててきた
■ベイシックインカム 国家による生存権の絶対的保証
■マイナスの所得税 共生・調和型社会の福祉税制
■アメリカとデンマークの二つの共通点
・教育への投資が世界トップ水準
・労働者を解雇しやすい
■レーガン大統領による教育の徹底的強化
”ゆとり教育”は廃止され、小中学校の授業時間数の大幅増から大学の教育カリキュラムのレベルアップに至るまで、教育全般に渡る徹底的な強化がただちに実行された。
その成果が、その後アメリカ発で世界に新しい時代を開いたインターネット革命だと言われている、
■官僚機構の二つの本能 「変化の排除」と「自己増殖の追求」
■官僚の大臣に従わない戦法の三段階
・レクチャー
・リーク
・サボタージュ
■日本の官僚システムを構築している特徴的な四つのファクター
・行政裁量権とデータの独占による「実質的な政策決定権」
・人事自治権と共同体ルールによる「組織的結束力」
・ブラックボックス化した特別会計による「膨大な資金力」
・メディアの掌握による「プロパガンダ機能」
■第四の権力であるメディアは国民の権利と社会正義を守るエージェントなのである。にもかかわらず、わが国のメディアは、官僚機構のプロパガンダを担当するエージェントになってしまっているのだ。
■強大な官僚機構に対して戦略的に有効な策
・政治=官邸/内閣が官僚の人事権を掌握すること
・特別会計を透明化・解消すること
■全メディア総動員で”官僚のポチ”であることだけは早く止めて欲しい
記者クラブ制による情報統制を解消する手立てにしても官僚のお取り計らいによって解消策を頂戴する形ではなく、メディアの方々の意志と行動によって官僚機構とメディアの関係を主体的に変えていくべきであろう。
■杉並区では区長のビジョンの下、区民と行政が話し合って不用な行政サービスを止めたり区民ボランティアが肩代わりしたりして、大幅に行政コストを省くことに成功した。
その結果、何と900億円以上もあった区の負債を12年で完済することができ、4800人いた区の職員を10年で1000人減らして3800人にすることができた。
しかもこれだけの効率化を行っても区のサービスに満足している人の割合は75%にも達している。
成熟日本への進路 「成長論」から「分配論」へ (ちくま新書) 波頭 亮 筑摩書房 2010-06-09 by G-Tools |