「デジタル・リーダーシップ」は、企業のコミュニケーションのあるべき姿について考察している書籍です。
献本を頂いたので、書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
「デジタル・リーダーシップ」というタイトルだと、リーダーシップ論の本と勘違いされる方も多いのではないかと思いますが、この本の原題は「Digital Strategies for powerful corporate communications」。
直訳するなら「パワフルなコーポレート・コミュニケーションのためのデジタル戦略」。
デジタル時代の企業コミュニケーションがメインテーマの書籍です。
特に注目すべきは、「多くの企業の経営陣が、コミュニケーションによって関係を発展させる必要性に気づき、PRは事務広報機能の一部から、企業の中心的な機能へと移行しはじめた」という部分でしょう。
確かに個人的にも、ソーシャルメディアにおけるコミュニケーションの重要性に比べて、一般的な日本企業における広報部の権限やリソースの少なさというのが、現在の大企業におけるソーシャルメディアに対する戸惑いを助長しているように感じます。
そう言う意味では、この書籍には、これからの企業のコミュニケーションやPRのあり方について真剣に考えたい方にはヒントが見つかる本ではないかと思います。
【読書メモ】
■ウェブ1.0の時代からウェブ2.0の時代へ
・プッシュ型ビジネスモデル → プル型ビジネスモデル
・商用ソフトウェア → オープン・ソース・ソフトウェア
・顧客サービス → カスタマー・セルフサービス
・ベストセラー商品 → ロングテール
・既存メディア → ソーシャルメディア
・1対1の顧客リレーション → 顧客コミュニティリレーション
・集中型の製品開発 → 分散型の製品開発
■多くの企業の経営陣が、コミュニケーションによって関係を発展させる必要性に気づき、PRは事務広報機能の一部から、企業の中心的な機能へと移行しはじめた。
■コーポレート・コミュニケーションの副次的機能
・マーケティング
顧客へのメッセージ発信の責任が、マーケティングからコミュニケーション機能への移行する
・メディア・リレーションズ
コーポレート・コミュニケーション機能の中心的存在にあることに変わりは無い
・インターナル・コミュニケーション
企業はこれまでより塾考して、従業員とコミュニケーションをとることがいかに重要であるかを認識すべきである。
・インベスター・リレーションズ
コミュニケーションの専門家とIRチームとの組織的な努力がなければならない。
・企業の社会的責任(CSR)
今日では、レピュテーションに関するリスクは、トラブルを回避することにとどまらない。
・パブリック・アフェアーズ
政府による規制を強化させ、訴訟のリスクが増加したビジネス環境では、この副次機能をどの企業においても関係あるものにした。
・クライシス・コミュニケーション
デジタルコミュニケーション・チャネルの急増は、単にリスクを深刻にし、ワンクリックでそのニュースをサイバースペースを通して、世界中の人々に拡散することを可能にしている。
■レピューテーション構築とブランド構築は対局にある手段である。
企業ブランドは、組織の独自の価値提案をステークホルダーに対して行うが、企業のレピュテーションはステークホルダーからの期待に対する達成度を示す。
■真の統合型マーケティング・コミュニケーションを生み出すための4つの要素
・顧客中心主義
・データ主導型
・統合
・効果的なブランド構築
■効果的なデジタルIMCプログラムの事例
・自社ブランドのターゲット層を、オンライン上で特定する
・ターゲット層の期待に応え、期待を超えるメッセージをつくる
・統合型キャンペーンを、デジタル空間で展開する
「幅広い層に到達するには、従来からのマスメディアを使った伝達手段も同じくらい重要だ」(HBO プロモーション担当 ザック・エンタリン)
・オンライン上で、不満の声がこだまする前にすべきこと
・オンライン上の会話を持続させる
・オンラインで展開したIMCキャンペーンの効果を測定する
■従来型メディアは次から次へととどまることなく、ニュースを流しているだけだ。
一方でオンラインジャーナリストは、ニュースを吟味し、深く考え抜く傾向が強い。
■「いわゆるエンゲージメント呼ばれることだが、こうしたツールの真の力は、会話やコラボレーションから関係性を築くことである。言うのは簡単だが、メッセージをつくって一方的に発信することから実際に対話をすることは、コミュニケーション担当者にとっては、本当の変革なのだ」(IBMジョン・イワタ)
■ブロガーリレーションのスキル
・影響力あるブロガーを見きわめること
・関係性を構築すること
・前向きな内容の記事を獲得できるようエンゲージすること
■「カクテルパーティーに割り込んでいって、とうとうとしゃべり始めるのでなく、ブロゴスフィアをカクテルパーティーのように扱う必要がある。何度かぐるぐる回ってみて、自分と共通することがある人を理解し、適切ならば会話をエンゲージするのだ」(KDペイン ケイティ・ペイン)
■否定的なブログ投稿への対応
「まずは、ビジネスに影響が出る場合にのみ返答すべきである」
■08年7月30日、SECは企業ブログを、フェアディスクロージャー規則における、情報開示として認めると発表した
■サウスウェスト航空のブログ炎上(2008年3月6日)
同社の責任者は五つのメッセージをブログに投稿したところ、一般から約450のコメントを集めることとなった。ほとんどが否定的な内容だったが、そうした内容のコメントをコーポレート・コミュニケーション部門の担当チームが残す決意をしたことで、一般利用客の感情を正しく理解することができ、ステークホルダーも自分たちの懸念について声をあげることができるフォーラムの存在に感謝をしたのだ。
■企業ブログを効果的に活用するポイント
・本物で、透明性を持っていなければならない
・最新ですぐ役に立つ内容を提供しなければならない
・自社サイトから簡単に見つけられるように繋がっている
■ソニーのPSP炎上(2006年12月)
ソニーは、明らかに責められてしかるべき間違いを起こした。しかし、炎が大きくなり、そして鎮火するのをただ見ているだけではなかった。
同社のコーポレート、法務、IT、人事、販売、マーケティング部門の幹部メンバーの協力により、新たなブログが2007年6月11日に立ち上げられた。
■デジタル時代のインターナル・ブランディング
・対外的なブランドの成功は、企業文化に対する従業員の感情の絆から始まる。
・企業の上級幹部は、もはや密室思考でいることは許されない
・従業員エンゲージメントのカギは双方向性にある
■ブログに関連した解雇で、最も高い注目を集めた事例の多くは、まだ大多数の企業が、ブログをステークホルダーに到達する正当な手段の一つとして取り扱うことを警戒していた03年から06年の間に発生した。
■タイレノール回収(1982年)
同社が真っ先に取った行動、すなわちタイレノールの回収と関連製品を使わないよう消費者に呼びかけたことは1億ドルの損失に陥ることから、大企業の対応としては異例であった。しかし、それは長い目で見て、戦略的な動きであると証明された。
■クライシス・コミュニケーションの手段
クライシス発生時に、企業が消費者とコミュニケーションをとるために最も有効な手段
・企業ウェブサイト 71%
・クチコミ/バイラルキャンペーン 39%
・顧客サービス部門の担当者 37%
・企業ブログ 31%
・テレビ 27%
・新聞 25%
■デルの物語は模範的なケーススタディとなった
最も重要なのは、デルが自社に好ましくない書き込みを削除せず、そして苦情に対応できるように、顧客サービス部門を再編したことである。2年もかからずに、デルは自社製品について、インターネット上の好ましくない書き込みを半減させた。
■クライシス時のポイント
・影響力のあるデジタルチャネルをモニタリングする
・コミュニケーション活動の指針として、透明性を尊重する
・SEOやSEM(たとえお金がかかったとしても)を積極的に活用する
・影響を受けたステークホルダーグループを把握し、それぞれにカスタマイズされたコミュニケーションを行う
・危険を冒す
デジタル・リーダーシップ―ソーシャルメディア時代を生き残るコミュニケーション戦略 ポール・A・アルジェンティ コートニー・M・バーンズ 北村 秀実 日本経済新聞出版社 2010-12-07 by G-Tools |