「エスケープ・ベロシティ」は、キャズム理論の「キャズム」や「トルネード」でも有名なジェフリー・ムーアの書籍です。
献本を頂いたので、書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
「トルネード」の読書メモにも書きましたが、ジェフリー・ムーアは決して「キャズム」一冊しか書いていない一発屋ではなく、実は「キャズム」に始まり「トルネード」「ゴリラゲーム」「ライフサイクルイノベーション 」など複数の著書で独自の理論を系統立てて構築しているイノベーション戦略の第一人者の一人と言えます。
正直著書が多すぎて、ジェフリー・ムーア・マニアを自称する私自身も、未だにそのイノベーション戦略論の全貌を腹に落として理解できているとは言えないのですが、分かりやすい比喩を用いた独特な理論には本当にまだまだ学ぶ事がたくさんあると感じます。
今回の書籍のタイトルになっている「エスケープ・ベロシティ」は直訳すると「脱出速度」。
既存のしがらみを振り切って、新しい世界に飛び出していく事ができるか、というのがテーマになっていますから、特に大企業の中で新規事業に取り組もうとしている方には刺激になる点が多々ある本だと思います。
【読書メモ】
■将来の機会とリスクを踏まえた構造的対話
・年に一度、戦略計画プロセスの最初に前年度の計画を配布する前に、そして、財務目標設定を行う前に、社外にフォーカスした発想で自社について再考する
・以下の三つの目標を考慮して、翌年度の計画作業へのアプローチを構成
・他者が積極的にサポートしたくなるような説得力のある将来ビジョンをまとめる
・ターゲットとする市場において自社をリーダーと位置づけるビジョンと一貫した戦略を立案する
・最大限の成果を達成し、多大なリターンを得られるような経営資源の配分を行う
■5つの力の階層
・カテゴリー力
・企業力
・市場力
・製品力
・実行力
■目標と指標、三つのホライゾン
・ホライゾン1(0~12ヶ月):経済的リターンの最大化 収益とOPEX
・ホライゾン2(12~36ヶ月):重要案件になる ターゲット顧客数とTIMEX
・ホライゾン3(36~72ヶ月):カテゴリーの創成 一流顧客とCAPEX
■クラウン・ジュエル
価値があり、防御可能なユニークな企業の能力であり、適切に開発できれば明確な長期的差別化を提供できる
・テクノロジー
・専門知識
・プラットフォーム製品
・熱心な顧客ベース
・規模
・ブランド
・ビジネスモデル
■一にリーダーシップ、二にマネジメント
・立ち上げ前にトップの支援を確保する
・ビジョンとロードマップを公開する
・背水の人を敷く
・最初にコアに投資する
・予算と人事において万難を排するアプローチを使用する
・成功の指標として重要市場のティッピング・ポイントに集中する
■ターゲット市場計画 TMI(Target Market Initiatives)
複数四半期、あるいは複数年にわたる、目的とした市場セグメントで支配的なシェアを得るための取り組み
・ターゲット顧客
・強力な購買理由
・ホールオファー
・パートナー
・販売戦略
・価格戦略
・競合
・ポジショニング
・次のターゲット
■完璧な先制攻撃をあたえるための二つの行動
問題の根本の解決にただちに使用可能なホールオファーを提供すること
しかし、最初の段階からそのような製品を用意するのは困難だ。最初は機能的にはまずまずで、いくつかの点で他社よりも先験的な要素を優位している製品が多い。
・顧客のビジネス上の問題に精通してそれを情熱的に解決しようとしている人物をターゲットにした業界からシニアエグゼクティブとして採用すること
・クラウン・ジュエルを明確化し、競合が提供していないソリューション・アーキテクチャの中心におくこと
■推薦者マーケティング(Reffer-based Marketing)
従来の意味における見込み客捜しは行わない
転換期にある市場で影響力がある30~40社の中からもっとも大きな問題を抱えていそうな企業を探し出す
その後の一年から一年半のうちに、上記のうち5~8社からプロジェクトの契約を勝ち取れれば、求めている口コミ効果のティッピング・ポイントに到達できる
■価格戦略には、ソリューションの価値に基づいた価格設定が重要
きわめて困難な課題に直接的に対応することで得られるコストとリスクの削減によって顧客が得る実際のリターンから価格が決まる
■ホールオファー価格
・支援者である事業部担当役員の予算再配分能力
・損益分岐点に至るまでの時間などの、顧客にとっての全体的価値
・ホールオファー構築に協力するパートナーの関心度
・ホールオファーを販売する営業担当者の報酬システム
■企業の脱出速度達成に向けた製品力推進プログラム
・生産性イノベーション:自社の経営資源を過去の引力から解放する
・中立化イノベーション:現在の収益と利益の目標を達成する
・差別化イノベーション:将来の成功をさらに拡大するための新たな力を創出する
■コンテキストの作業にとらわれている経営資源を解放する6段階のモデル
・集中化
・標準化
・モジュール化
・最適化
・測定
・アウトソース
■価格とメリットの感受性
・プレミアム:サービスのメリットに特に注目し、価格をあまり気にしない
・性能:メリットは追求するものの、価格も気にする
・コスト:メリットはあまり気にしないが、価格は気にする
・利便性:メリットも価格も重視しない
■投資の考え方
・製品リーダーシップの戦略はメリットを重視する顧客に向いている
・オペレーショナル・エクセレンス戦略は本質的に価格を重視する顧客に向いている
・顧客インティマシー戦略は、高価格を維持し、価格に敏感でない顧客を引きつける
■自社のコア能力とクラウン・ジュエルによって可能になる10×効果
想定している10×効果の製品に飛びついてくれる顧客がいることを確認
求める10×効果が自社のコア能力とクラウン・ジュエルにより実現可能であることを確認
■実行モードの四つのモデル
・インベンター(未来指向):創造性、自発的、直感 (研究開発、クリエイティブ)
・デプロイヤー(現実的):競争力、意志の強さ、実験 (セールス、エンジニアリング)
・オプティマイザー(保守的):統制、事前準備、協議 (財務、業務)
・オーケストレーター(現実的):協業、感情移入、意思統一 (マーケティング)
エスケープ・ベロシティ キャズムを埋める成長戦略 ジェフリー・ムーア 栗原 潔 翔泳社 2011-12-14 by G-Tools |