studygiftの派手な炎上騒動から、私たちは何を学ぶべきなのか

 ここ2週間ぐらい、すっかりネット界隈の話題はstudygift周辺の騒動を中心に廻っていた感じすらある今日この頃ですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。
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 私は丁度先週は、一週間imediaサミットに参加していて不在にしていた関係で、すっかり話題に乗り遅れ、今更ブログを書くのも周回遅れ感がすごいあるのですが、いろいろと自分の中でもやもやとしているところが残っていることもあり整理の意味も込めてブログを書いてみます。
 まず最初に私のスタンスを明確にしておくと、私は坂口さんとは面識はありませんが、studygifの中心メンバーである家入さんは、個人的にも尊敬している起業家の一人。
 家入さんが書いた「こんな僕でも社長になれた」は、読んでいて不覚にも泣きそうになったことがあるぐらいですから、いわゆるネットでつながっている側の人間で。家入さんの炎上すれすれのネタで注目を集めていくセンスには、いつも脱帽させられますし、軽いジェラシーすら感じている人間だったりします。
 そういう意味では、今回のstudygiftで家入さんがチャレンジしようとした趣旨は理解しているつもりですし、今回の騒動の経過や結果は非常に残念に思っている人間です。
 
 今回の炎上騒動には、学生の学費や奨学金のあり方や、寄付の仕組み、新しい取り組みが始まる時の既存のルールとの整合性の取り方や常識論から、罵倒と建設的な批判、人間関係や情報開示の問題など、様々な論点がありすぎて、本当に様々な議論を誘発していました。
 同じネット業界にいて、既存の仕組みに挑戦して新しい何かを生み出そうともがいているものとして、実は今回の騒動からはさまざまな何かを学べる気がしていますし、学ぶべきではないかと思い、ブログを書いてみることにします。
 まず今回の騒動を時系列で振り返ってみましょう。
■5月17日studygiftサービス公開
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 studygiftが、最初の学費支援候補として坂口さん一人をプッシュしたサービスサイトを公開したのが5月17日。
 家入さんやヨシナガさんを中心としたメンバーの告知と、インパクトのあるサイト構成と、突っ込みどころ満載の文章構成もあり、17日から翌日の18日にかけて一部ネット界隈に一気に話題が広まっていきます。
 サービス開始から四時間で60人のサポーターと30万円近い支援金を集め、17日の深夜には早速ITmediaのねとらぼが記事として取り上げます。
■5月18日学費が払えないなら俺たちが払う! 「studygift」はクラウド時代の「あしながおじさん」なのか – ねとらぼ
 この記事の中で既にネットの反応は賛否両論だ、と書かれていたように、この時点で既に炎上の兆しが見えているのが分かります。
 実際、Startup Datingの平野さんは、18日の段階でstudygiftの問題をタイトルにした記事を投稿。


■5月18日「ただ困っている子を助けたかった」ー #Studygift は何が問題だったのか | Startup Dating [スタートアップ・デイティング]
 
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 よく読むと、この記事はstudygiftを単純に批判しているのではなくエールを送っている記事なのですが、このあたりから一部界隈ではstudygiftは問題を抱えているという認識が生まれていたようです。
 一方、studygift側もこの記事を受けて、サイト側に坂口さんの名前で釈明の記事を投稿することになります。
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 ただ、この時点では、物議を醸してはいるものの、サービス中止がありうるレベルではなく、このまま週末を迎えることで、話題は収束するかと思われました。
 私自身も、この日に騒動の盛り上がりの一端を目にして、家入さんはこの手の炎上マーケティングが得意だな、と見ていた記憶があります。
 その後、studygiftは週末の20日に目標としていた金額を達成。
■5月20日 目標達成
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 当然目標達成と言うことはプロジェクトとしては成功。
 わずか55時間で100万円近い金額を集めたわけですから、大成功と言っても良いレベルでしょう。
 批判や逆風にめげずに目標を達成できたことで、メンバーも喜びは大きかったはずです。
 ただ、これで話は終わるかと思いきや、翌週に入って雰囲気が変わります。
 その一つの象徴と言えるのがこちらのブログ記事でしょう。
■5月21日家入一真さんの例の件で願うことなど: やまもといちろうBLOG(ブログ)
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 正直、私自身も、切込隊長ことやまもといちろうさんが、ここまでネタを一切入れずに冷静な文体でブログを書いているのは、あまり見たことがありません。
 さらに、この時点でサイトに掲載されていた内容が事実と異なる可能性があるなど、様々な疑惑が指摘されており、studygift側も事態を重く見たのか追加のサポーター募集を停止。
 サイト側にも追加の釈明のお知らせが投稿されます。
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 ただ、この情報が不十分だったこともあり、批判者の疑惑の追及はさらにエスカレート。
 一部では早稲田大学等への電凸行為にも発展したようで、さまざまな疑惑や噂がその後23日にかけて錯綜し続けます。
■5月23日続・Studygiftの喧騒が意外な方向に(追記あり): やまもといちろうBLOG(ブログ)
■5月23日僕秩ヨシナガさん、自身が想いを寄せる女性への寄付を募る目的でStudygiftを立ち上げたということでFA: やまもといちろうBLOG(ブログ)
 並行して、23日にCNETにサービス側の三人のインタビュー記事が掲載されますが、記事の終わり方は「livertyではstudygiftをブラッシュアップし、この新しい試みへの理解を深めてもらうというが、ソーシャルメディアとの温度差はまだ大きい。」とても新サービスのインタビュー記事とは思えないネガティブさ。
■5月23日「炎上マーケティング狙っていない」–studygiftに集まる賛同と批判の声 – CNET Japan
 ここに来てついにstudygiftのサイト側に謝罪の文章が掲載されます。
■5月23日studygift スタッフからの大切なお知らせ
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 ここにおいて当初から指摘されていた在学状況等の説明がようやくなされ、希望者に対しての全額返金を行う旨が宣言されます。
 で、通常はここで収束するのが普通なわけですが、残念ながら話はここで終わりません。
 翌日にはやまもといちろうさんから、家入さんに対して、まだ対応が十分ではないのではないかという指摘がツイッター上で展開。
■5月24日山本一郎氏、 #studygift 騒動のソフトランディングを迫る。 – Togetter
 サービス開始直後には比較的中立な記事を掲載していたITmediaのねとらぼにも、かなり強い調子の批判記事が掲載されます。
■5月25日studygiftはなぜ暴走したか 「説明不足」では済まされない疑念、その中身 (1/2) – ねとらぼ
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 写真を見る限り、わざわざ取材をされていたようですから、本来はインタビュー記事として掲載する予定だったものでしょう。
 実際の取材の経緯は分かりませんが、記事の中では弁護士の厳しいコメントの下に三人の写真が掲載されており、完全に反省の弁を語らせている印象を受ける記事になっています。
 さらには、ついにヤフトピに炎上記事を提供するのが得意なことで有名なJ-CASTニュースにも批判記事が掲載。
■5月25日「お金下さい!」女子学生に批判集中 「学費集め」サービス、第1号で早くも挫折 (1/3) : J-CASTニュース
 Yahooニュースのアクセストップに、この記事が躍り出ることになります。
 その後週末に対策が合意されたのか、翌週の28日にstudygiftがサービスを一旦停止し、全額返金をすることが発表されるわけです。
■5月28日「studygift」がサービス一旦停止、全額返金へ 「今回の事態を厳粛に受け止める」 – ねとらぼ
 サービス開始から、サービス停止まで11日。
 サービス期間としては当然短いという印象を受ける人が多いと思いますが、実は炎上期間が11日と考えると「長い」と考えることもできます。
 通常のツイッターの炎上事例は1日2日で終了するのが通常です。11日もの間、ずっと炎上し続けていたという意味では、非常に長い炎上事例だったという見方もでき、この間、関係者の方々が精神的に感じていたストレスの大きさは想像を絶するものがあります。
 では、どうすればここまでの長期にわたる派手な炎上騒動になることを避けることができたのでしょうか?
 まず炎上のネタとして根本にあるのは、studygiftの最初のプロジェクトの構造自体にあったのは否定のしようがありません。
 一言で言うと「可哀想な学生を寄付で助けると言うビジョンと実態の乖離」です。
 そこに恣意的な嘘や隠蔽があったかどうかは、部外者の我々には分かりませんが、実際に炎上を生むポイントはそこではありません。
 実は、外部者から嘘があったと見える「乖離」自体が炎上を生みます。
 studygiftの「学費が払えない学生の支援」というビジョンと、「Google+でフォロワー数が多いことで有名になった坂口さん「だけ」を支援する」という実際のプロジェクトの乖離が、今回の炎上の導火線といえるでしょう。
 家入さんが有料メルマガをたとえにしていましたが、坂口さんを応援したい人がファンクラブ会費として5000円を支払い、坂口さんの近況報告有料メルマガを契約することで、坂口さんがバイトや親の仕送りに頼らず学校に頼ることを可能にするという一芸支援であれば、単なる有名女子学生の有料メルマガサービスですから、法的な突っ込みや倫理的な批判を受けずに済んだはず。
 「可哀想な学生を寄付で助ける」と言う建前にしてしまったことで、そもそもの寄付対象の属性や人間関係、サイトの告知文の文章構造などに違和感を感じる点が多く発生することになり、その後の裏取りによって表面上の乖離以上の矛盾がほじくりかえされてしまい、その後の崩壊につながっていると言えます。
 もちろん、最終的に学費が払えない学生を支援するというビジョンを達成したいというのがあるのであれば、一芸プロジェクトサービスでは意味がなかったのかもしれませんが、まず一芸プロジェクトサービスとして成功させてから、ビジョンにより近いサービスにスライドしていくという手もあったかもしれません。
(そういう意味では、studygiftは知名度は十分あがったわけですから、本気でビジョンを達成するサービスに作り直して登場すれば、再起は十分あり得ると思っていますが)
 ただ、今回の炎上騒動が長期化したのは、実はサービス構造だけが問題ではありません。
 最初から完璧に作ってこい、という姿勢がイノベーションを停滞させているというような議論が今回の騒動のそこかしこで行われていましたが、私もそれは一理あると思っています。
 何もかも完璧に最初からしないといけないのであれば、チャレンジするコストが高くなり、新しいものが生まれにくくなります。
 そういう意味では、今回のようなチャレンジは私は本質的には今後も応援したいですし、livertyのメンバーにはこの経験を糧にもっと良いものを真剣に生み出してもらいたいです。
 ただ、一方で今回のような騒動を起こしたことで、類似の他のサービスや、クラウドファンディングの可能性にまで悪影響を及ぼしてしまったかもしれないという点についても、真剣に考えてもらいたいとも感じます。
 
 特に、今回の騒動で本質的に良くなかったのは、炎上が見えてからの一連の対応ではないかと感じています。
 上述した一連の対応の流れを時系列で見て頂ければ分かると思いますが、実はstudygift側には炎上を収束させるチャンスが11日間に何度もありました。
 これらの対応を過去の他の炎上事例と重ねてみると、学ぶべきポイントが見えてきます。
 というところまで書いて、さすがにブログが長文になりすぎてしまってエネルギー切れになってきたので、今日はここまで。
 続きは明日・・・元気があったら・・・というか要望が多かったら書くかもしれません。
 待ちきれない人で、代わりに書いてくれる人も募集・・・します・・・