さて、予想外に先週から継続されることになっている、ペイパーポスト関連の重い記事シリーズですが。
私が過去の記事で、できるだけ中立に記述しようとしていたために、私をペイパーポスト推進派と勘違いしている人もおられるようなので、ここで明確に私が、一ブロガーとして、いわゆる不特定多数を対象にしたペイパーポストは「ナシ」だと思っている理由を書いておきたいと思います。
長文で読みづらいという苦情も頂いているので(汗)、今回は箇条書きを試みてみます。
(でも、お察しの通り以下長文注意です)
【非開示ペイパーポストの場合】
まず、先日の「GoogleのPayPerPost騒動の議論に思うこと」にも書いたように、個人的にそもそもNGだと思っているのは、ブログの記事中で報酬の開示を義務づけていない非開示ペイパーポスト。
再掲になりますが、整理するとNGだと思う理由は以下の4つです。
■報酬の有無を隠すことは、やらせ記事ととらえられる
そもそも記事を書くこと自体に、金銭報酬があるのであれば雑誌やニュースサイトの記事広告同様、その記事がメディア側の興味からではなく、企業の報酬をきっかけに書いていることを開示する義務があるはずです。
企業からお金をもらっているにもかかわらず、それを隠して他の人に製品を推奨することは、極端に言うと企業から買収されているのに近く、読者から見るとあきらかにやらせ記事になってしまうと思います。
■利用者にやらせ行為を推奨することは、より深刻な問題である
記事広告を記事広告と明記するという倫理の問題は、実際には、一部の雑誌やニュースサイトではなし崩しになっているという話もあり、それと比較してマスメディアと同じという人がいます。(実際米国のPayPerPostの人も言っていました。)
ただ、上記の例は主体となるメディアが「企業」であり、自らの知識の元にリスクを取っているといえますが、ペイパーポストの場合は「不特定多数の個人」にやらせ行為を推奨するという意味で、単純な非開示の記事広告より、更に問題だと考えています。一部の事業者は「利用者に開示の判断を任せる」というポリシーを取っているようですが、個人的にはプロの企業が素人に責任を押しつけているように見えてしまいます。
(米国のFTCでも「プロダクトの口コミによるプロモーションを行い、口コミを行った人が口コミ料を報酬として受け取る方式の マーケティングを行う企業は、その旨を明らかにしなければならない」という意見書を発表しています。)
■企業側に炎上リスクがある
さらに、仮に上記の倫理上の問題がもし無視できたとしても、マーケティング上も炎上のリスクがあります。
企業が、ブロガーに金銭的報酬を支払い記事を書かせ、そのことを隠していた場合、当然利用者がそのことを良く思うわけはありません。
今回のGoogle Japanの騒動は、開示型のペイパーポストですし、Googleの自社ルールに抵触していたという話ではありますが、非開示のペイパーポストの利用が悪い形で判明した場合には、他の企業でも同様かもっと悪いトラブルになるケースも否定できません。
■書き手側にも炎上リスクがある
金銭的報酬があることを隠して、ブログに記事を書いた場合、炎上の対象になりうるのは企業だけではなく、ブログの書き手も同様です。
テレビのように電波というチャネルを持っている媒体であれば、あるある大辞典のようなやらせ騒動があっても、視聴者がそのチャンネルを二度と見なくなると言うことはほとんどありませんが、ブログの場合読者と書き手をつないでいるのは「信頼」だけです。その信頼を失ってしまったら読者を失う可能性は高いでしょう。
日本でも、NHKに取り上げられた 女子大生のブログが炎上したケースがありました。
上記のように、非開示ペイパーポストについては、そもそも倫理的にNGだし、マーケティング的にもリスクが大きすぎるのではないか、というのが私の考えです。
【開示型ペイパーポストの場合】
では、非開示でなければ開示型にすればペイパーポストはそれで良いのか?というと、それもマーケティング手法としてはなかなか難しいのではないかというのが私の考えで。
その理由は下記の7点です。
■記事単位で報酬を保証すると、質の低い記事が増える
まずペイパーポストの最も一番印象が悪いのは、記事の内容を問わずにとにかくブログに指示通りの記事をあげさえすれば、数百円程度の決まった報酬が支払われる場合が多い点です。
この場合、ブログを書く側からすると、記事の内容に関わらず報酬は一定ですから、記事をきちんと書くモチベーションはあがりません。ひどい事業者になると記事の中身も確認していないようですから、当然プレスリリースのコピペのような、閲覧者からするとスパム的な投稿が増えやすいわけです。
■ブログの質を問わないため、そもそも読まれていないケースが多い
また、一般的なペイパーポストは、ブログさえあれば誰でも参加できるようなサービスが多くあります。
そうすると、一人で5つぐらいブログを立ち上げ、同じ案件に5つのブログから応募して、記事をコピペして投稿するという、ペイパーポストの収入だけを狙ったセミプロの人たちが集まってくることになりがちです。
当然、こういうブログにはいわゆる普通のブログ記事は無く、読者も存在しませんから、そもそもペイパーポストで狙っているはずのクチコミ効果や露出効果が期待できないことになってしまいます。
■報酬が安いため、影響力のあるブロガーが参加しない
一般的なペイパーポストの場合、一記事あたりの報酬は100円~数百円程度になるようです。
これは、お小遣い稼ぎとしては意味のある額かもしれませんが、一般的なライターが記事を書く際の原稿料と比較すると圧倒的に安いのが現状です。
その結果、当然、影響力のあるブロガーほど、こういった低額の報酬のペイパーポスト案件には参加しないことになります。
また、記事広告を頻繁に書いているブログは、当然読者としても、広告ばかりの新聞を読まされている状態ですから、なかなかそのブログのファンが増えない結果になりがちです。
■広告であることを開示して、読者の役に立つ記事を書くことは難しい
また、開示型ペイパーポストでは、当然報酬があることを何らかの形で開示するわけですから、読者はその記事が金銭報酬に基づく記事広告的なものであると認知して記事を読むことになります。
広告であることを前提として読んでいる読者に、何らかの影響を与えるには、当然それなりの文章力や表現力が必要になりますが、先ほど書いたように一般的なペイパーポストサービスはプロのライターにとっては報酬が安すぎるのが現状です。
そうすると、当然こういったサービスの参加者によって書かれる記事は、いわゆるプロが書く記事広告に比べると質が劣ることになりますから、広告であることを開示した上で、読者の役に立つ記事としてなりたたせることはかなり難しいと考えられます。
■クチコミ情報としても、体験が伴わないため意味がない
上記のような観点もあるせいか、一部のペイパーポスト系サービスでは、生成される記事を記事広告ではなく、利用者のクチコミだと強調されているサービスがありますが、金銭報酬をベースとしたペイパーポストにおいては、その視点も難しいと思っています。
読者にとってクチコミが役立つかどうかの最大のポイントは、その記事が「体験」に基づいているかどうかです。
サンプルを配布するケースや、モニタープログラムとセットの記事執筆であれば、具体的な体験談を書けますが、単純に小銭だけを支払って製品やサービスについての記事を書いてもらおうとすると、当然体験談は書けません。
結果的に、一般人ではプレスリリースぐらいしか記事を書くための情報が無く、プレスリリースのコピペが乱立する結果になってしまうわけです。
■利用者が製品について検索した場合に、印象を悪くするリスクがある
さらに、ペイパーポストのキャンペーンを実施した場合の隠れたリスクとして存在しているのは、その製品についての情報を実際に利用者が探すケースです。
ペイパーポスト以外のクチコミがネット上にあまり存在しなかった場合、利用者がその製品の製品名で検索をすると、ペイパーポストで生成された記事ばかりがひっかかってくることになります。
その際に、同じようなプレスリリースのコピペ記事ばかりが検索結果に表示されたらその利用者はどう思うでしょうか?
結果的に、その製品やサービス、しいてはそういったコピペ記事を書かせた企業への印象も悪くなるリスクが高いのではないでしょうか。
■有料リンクに認定されGoogleからペナルティを受けるリスクがある
上記のように考えてみると、ペイパーポストを使ったことが無い方からすると、なぜ企業がペイパーポストを利用したがるのか分からなくなるぐらい、リスクが高い難しい手法だということがお分かり頂けるのでは無いかと思います。
それでも日本でペイパーポストを利用する企業が多い理由のひとつは、一度の施策で数百~数千のブログに一度に記事を書いてもらえることによるSEO効果を期待するものです。
ただ、そのSEO効果を期待するペイパーポストについても、今回Googleが明確にNGという方針を打ち出したことは、ペイパーポストの魅力のひとつを大きく削ぐことになると思います。
特に、今回Google Japan自らがページランクの引き下げのペナルティを受けたように、ペイパーポストを有料リンクとして利用した企業自体が、検索エンジンのペナルティの対象となりうることが明らかになりました。
過去にはサイバーエージェントの関連サービスが検索結果から消えるなど、Googleは有料リンクに対しては厳しい態度で臨んでいますので、SEO効果に期待してペイパーポスト系サービスを利用するリスクは、今回さらに高くなったと言えるでしょう。
当然、Googleが推奨している のno followタグを入れれば、SEO効果は全く見込めないことになります。
仮に露出効果のみを期待して、no followタグを入れるようにペイパーポスト参加者に依頼しても、何名か入れ忘れることがあると、結局ペナルティの対象となるリスクがあることになるでしょう。
もちろん、ペイパーポスト系のサービスには、支払った報酬の金額に応じてブログ記事を書いてもらえるという分かりやすいメリットがあるのは事実です。
ただ、その「記事数」という指標にどれだけの意味があるのかということは、冷静に考える必要があると思います。
上述したように、ひとつずつ順番に考えると、仮に大量のブログ記事は生成できたとしても、マーケティングとして意味のある記事がその中に含まれている確率の低さを考えると、リスクに見合わない施策なのではないかと思ってしまうわけです。
つまり、上記のように考えていくと
報酬を開示したペイパーポストというのは、「クライアントに対して記事の質やブログの質をある程度担保し」、「ある程度高めの報酬を設定することで影響力も文章力もある書き手を集め」、「Googleのペナルティをうけないような対策をほどこしながら」、「検索でひっかかったときに利用者に役立つような複数の異なるブログ記事を書いてもらわないといけない」、という、実は非常に慎重に取り組むべき手法な訳です。
でも、そこまでくると多分それはもう「ペイパーポスト」とざっくり呼ばれるようなサービスではなく、複数のブログ記事広告の一括調整請負サービスというべきなのかもしれませんよね。
なお、前半の話に戻りますが。
個人的には、コピペ記事を量産するような質の低い非開示ペイパーポストの乱発のために、一般利用者に「ブログはやらせ」というイメージが広がることで、ブログの本来の会話やクチコミのプラットフォームとしての価値を下げることにつながってしまうのではないかというのが、最も心配なポイントです。
ブログの読者が、ブログの記事に情報としての価値を感じなくなってしまったら、結局誰もブログを読まなくなってしまって、ブログ自体の価値が下がってしまうわけで、それってブログをプラットフォームとして利用している非開示ペイパーポスト事業者が、実は自分で自分のクビを締めている行為だと思います。
ブログの価値が無くなってしまったら、非開示ペイパーポスト自体も事業として存在できないわけです。
そうやって順番に考えていくと。
ブログやインターネットが好きならば、
ブログやインターネットに少しでも恩を感じているならば、
やっぱり焼畑農業的な非開示ペイパーポストには、絶対手を出しちゃダメだと思ってしまうわけです。
※とはいえ、上記の項目については思い込みに近いものもあると思いますので、皆さんからのコメント、特にペイパーポスト系のサービスを活用したことのある企業や代理店の方々、サービス運営企業の方々からの反論、提案お待ちしております。
来週木曜日のWOMマーケティング研究会でも、このあたりの議論がされると想像していますので、当日参加される方も是非よろしくお願い致します。
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・Google Japanの再謝罪に改めて思う、過ちを認めることの大切さ
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11行で読む「安易にペイパーポストには手を出しちゃダメだと思う 11の理由」
徳力さんのPPPに対するスタンスのエントリーが素晴らしいまとめなのですが、
長いので11行にしてみました。
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