「経験経済」は、現在の企業間競争の本質の変化について考察した書籍です。
昨年読んでいたのですが、先日海外の方との打合せに出てきて刺激を受けたのもあり、書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
この本では、コモディティ、製品、サービス、そして経験へと、企業の差別化のポイントが時代とともにシフトしている点に焦点を当てています。
私が読んだのは2000年に出された書籍が、2005年に再出版されたものになりますが、今読んでも古く感じることはなく、ソーシャルメディアが話題になっている今こそ、あらためて注目しなければならない書籍のように感じます。
実際問題として現在の企業間競争においては、製品の機能はもちろん、サービスのレベルでも差別化が難しくなっているのが明らかな現状でしょう。
そんな中、ディズニーランドやアップルのように、一見競合他社と同じ事業を行っているようで、利用者側からは全く違う企業として受け止められる、そんな経験を提供できる企業になれるかどうかが、明らかに選ばれる企業になるための条件になってきています。
多くの日本企業は、どうしても高度経済成長期の成功体験から、価格競争や製品やサービスの機能競争に陥りがちな印象がありますが、中国や韓国など人件費の安い国の企業の台頭が目立つ中、もはやそのレベルでの競争に限界があるのは明白。
そう言う意味で、日本企業が目指すべきは、この「経験」そしてその上にある「変革」レベルの戦いになるはず。
今回の震災をきっかけに、世界に対して新たに「日本」というブランドをどのように位置づけていくかという話とセットで、今こそ改めて考え直すべきポイントのように思います。
【読書メモ】
■コモディティ化。この言葉が自社の製品やサービスに使われて喜ぶ企業はない。
■コモディティから製品、サービス、そして経験へと進化するのが経済価値の本質なのである。
■インターネットは、製品もサービスもコモディティ化する強力なパワーを持っている。昔ながらの商売に見られる人と人の関わりという要素の多くを取り除いてしまうからだ。
■経験ステージャー
製品やサービスそのものではなく、それをベースに顧客の心のなかに作られる感覚的にあざやかな経験を提供する。
これまでの経済価値はすべて買い手の外部に存在しているが、経験は本質的に個人に属している。
■メーカーの関心をユーザーにシフトし、その人が製品を使用しているとき、つまり「ING化(進行形)」された状態での心や体の動きに注目してみるのだ。
■会員制クラブ組織をつくろう
経験をもっとあざやかなものにするために専門家の力を借りたいと消費者が思ったら、製品がすぐに買えるように、製品を経験としてパッケージングし、プロモーションすることにある。
その次に、リアルに、バーチャルにクラブのメンバー同士を結びつけ、製品のベストな経験の仕方や企業が提案した製品についてのアイディアや意見を交換すること。
■経験のステージングにおける4E領域
・エンターテインメント(娯楽):一番古くからある経験領域
・エデュケーション(教育):顧客個人の積極的参加が不可欠
・エスケープ(脱日常):自分が登場人物になってイベントに積極的に関わる
・エステティック(美的):個人が自らを投入する具体的なイベントや環境に影響を与えることはほとんどない
■ディズニーランド=「顧客が中に入り込めるマンガ」
■経験にテーマを与える五つのルール
・人を惹きつけるテーマはゲストの現実感覚を変える
・記憶にあざやかに残るような場所は、空間、時間、物質の三つの側面から人々の経験に働きかけ、そこにいる人の現実感覚を完全に変えるテーマを持っている
・魅力的なテーマは空間、時間、物質を一つのリアルなまとまりとして融合させる。
・一つの場所の中に複数の場所をつくりだすことで、テーマは強化される
・テーマは経験をステージングする企業の特性に合っていなければならない
■望ましい印象を生み出すためには、企業はゲストが経験のテーマが確認できるような「キュー」を導入しなければならない。
■経験と結びついた記念品の販売は、経験を広げるアプローチの一つだ。
本来的に経験と不可分な品物を個人的な記念品にするのは第二のアプローチである。
■マス・カスタマイゼーション
マス・カスタマイズのおかげで、企業はコスト削減と個客対応というビジネス上の至上命題を両立させられる。
マス・カスタマイゼーションは、今日の過酷な競争環境では不可欠になっている。
■計画的インタラクションの三つのやり方
・一度にすべての選択肢を示したうえで顧客に自由に選んでもらってもいい。
・一度に少しずつ選択肢を示す。
・デザインツールを意図的に隠す
■顧客の要望がつかめたら、今度はそれを直接取り入れて、より効率的に製品の生産やサービスの供給を行ない、旧来からのサプライチェーンをデマンドチェーンに転換する必要がある。
■知るべきものは「顧客我慢」
・顧客満足=顧客が得られると期待しているもの - 顧客が得られたと認知しているもの
・顧客我慢=顧客が本当に求めているもの - 顧客が受け入れたもの
■演劇の4つの型
・即興劇
即興の場合、想像力、創造性、それにこれまでにないまったく新しいパフォーマンスが求められる。
・舞台劇
舞台劇では、物語は定められた順番で進行するので、あらかじめ用意された台本から逸脱する余地はほとんどない。
・編集劇
別の時間に、別の場所で行われた出来事の断片を連ね、調和のとれた形で全体像を描き出す。
・路上劇
まず道行く人々の関心を引き、そのスキルや能力で集まった観客を驚かせ、最後に観客に見物料を要求する。
■完全に暗記された売り込みパターンを利用しているときは、セールスマンは路上劇を演じている。
■経済価値のピラミッド
変革:決めて導く
経験:描き出して演出する
サービス:考えだして提供する
製品:開発して製造する
コモディティ:探し出して抽出する
■すべての企業はビジネスをとおして自社の理念や価値観を実践している
・コモディティの抽出は、地球上に生息するすべてのものに影響を及ぼしている
・製品は、ユーザーをその製品の使用者に変える
・サービスは、ゲストをサービスの受け手に変える
・経験は、顧客をイベントの参加者に変える
・変革は、変革志願者を「新しい自分」へと変える
■企業が何に対して請求しているか
・コモディティビジネス:物質に対して請求
・製品ビジネス:有形物に対して請求
・サービスビジネス:実行した活動に対して請求
・経験ビジネス:顧客と一緒に過ごした時間に対して請求
・変革ビジネス:顧客が達成した実証済みの成果に対して請求
■ビジネスは劇場である
変革のガイドの役割はただ一つ。大きな望みを抱く役者が新たな役割を演じるのを監督することである。
■顧客から信頼を得るためのポイント
・カスタマイズすること
・顧客を本当に惹きつけてやまない経験をステージングすること
・役者が新しい演技をリハーサルできる場を設けること
・役者の演技を演出すること
■経験の演出に必要なプロセス
・新しい台本をつくる
・イベントを効率的に演出する
・記憶に残す
・観客と出会う
■顧客を変革するのに必要なプロセス
・新しい目標を決める
・顧客を導く
・決意を強くする
・顧客を支える
■「経験を利用したマーケティング」ではなく、「経験を作り出すこと自体がマーケティング」
■ロケーション・ヒエラルキー・モデル(リアルな場所)
・フラッグシップとなる場:ほかのどこにもない唯一の場をつくる
・経験のハブとなる場:顧客が自然に集まれる場所を数カ所選ぶ
・主力となる場:日常的にその地域で生活している人に働きかける場
・派生的な場:他の店舗やイベントに出店する”場所の中の場所”
・世界中の市場:顧客が企業の売り物と出会う可能性のあるすべての場所
■ロケーション・ヒエラルキー・モデル(バーチャルな場所)
・フラッグシップサイト:ほかのどこにもない唯一の場所
・経験のポータル:時間をかけて楽しめる経験価値の高いポータル
・主力のプラットフォーム:独自のウェブ経験を提供したい場合につくる独自のウェブサイト
・派生的なサイト:他社のサイトの中に”サイトの中のサイト”として自社のデジタルな経験の場
・ワールドワイド・ウェブ:企業の売り物に関する情報が掲載されている数多くのウェブサイト
■経験ビジネスを成功させる7つの原則
・フラッグシップとなる場をつくれ
・伝統的マーケティングから予算を奪取せよ
・クリエイティブなアイデアこそが研究開発だ
・幅広い経験のポートフォリオを用意せよ
・リアルとバーチャルの経験を統合せよ
・経験に料金を請求せよ
・チーフ・エクスペリエンス・オフィサーを雇え
[新訳]経験経済 B・J・パインII J・H・ギルモア 岡本 慶一 ダイヤモンド社 2005-08-05 by G-Tools |