「ソーシャルメディア進化論」は、タイトル通りソーシャルメディアの進化について考察している書籍です。
献本を頂いたので、書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
ソーシャルメディア進化論というタイトルは一見大げさに見えるかもしれませんが、書籍を読むと分かるように、この本の著者である武田隆さんは、実は日本ですでに15年もの間、現在「ソーシャルメディア」と定義されるようになったオンライン上の利用者によるコミュニケーションと向き合ってきた方です。
この本も一般的なソーシャルメディア本に見られるようなソーシャルメディア活用のノウハウや、現象をまとめたものではなく、15年間の考察をまとめたまさに進化論というべき内容になっています。
正直、哲学書や心理学の本と言った方が印象としては近いかもしれません。
今でこそ、この領域は「ソーシャルメディア」という言葉で大きく定義されるようになりましたが、実はオンライン上での企業と利用者のコミュニケーションの可能性というのは最近始まったことではなく、95年頃にインターネットが普及し始めてから、様々な人が追求し始めていた現象でした。
このソーシャルメディア進化論を読むと、インターネットの黎明期に言われていた可能性が、ようやく最近のツイッターやFacebookなどの狭い意味での「ソーシャルメディア」の普及により、より具体的になりつつあるだけかもしれない、という感覚を受けると思います。
現在のソーシャルメディアブームを一歩引いて俯瞰的に考えたい方には参考になる点が多々ある本だと思います。
「グランズウェル (シャーリーン・リー)」や「エンパワード」をあわせて読むのもお勧めです。
【読書メモ】
■インターネットの本質に適応するコミュニケーションのスタイル(FOOL)
・フラット(Flat)
・オープン(Open)
・オンリー(Only)
・ロングターム(Long Term)
■ソーシャルメディアの四象限
・現実生活:個を起点に広がる。実名制が高くなり、生活範囲の人間関係でつながる傾向が生まれる。
・価値観:まず和があり、次にそれを構成する要素として個をとらえる。匿名性が高くなり、趣味や想い、価値観を通してつながる傾向が生まれる。
・情報交換:規模が巨大になり、重複を排除する特徴が現れ、集合知を生成する。参加者どうしの距離は比較的離れており、利便性や有効性がその評価の対象となる。
・関係構築:規模は20名程度、中心となるリーダーの数だけ重複を許す特徴が現れ、親密な思いやり空間を生成する。
■最近になって、「ソーシャルメディアは実名で参加するべきだ」という主張が目立つようになった。そのうちのほとんどは、ソーシャルメディアの経験が不足していることによる「人は実名じゃないと信用できない」という素朴なものだ。
■そもそも、個人が実名制を高めた状態でソーシャルメディアに参加することには大きな危険がともなう。
■企業の存在はソーシャルメディアの抱える問題を解消する可能性がある。ソーシャルメディアを通して個人が社会に対して発言する際、企業はその橋渡しの役割を担えるかもしれない。
■2007年、ついに花王は、第3世代の企業サイトとして、花王と顧客が相互に対話するコミュニティを設け、「場の時代」への移行を果たす。
「情報を受け取るだけの消費者は、もういない。企業は、自ら情報を発信するお客さまと、どのように対話するかが問われている。」(花王石井氏)
■参加者たちが子育てをテーマに会話を交わしていると、ある日、「いつもコミュニティを盛り上げて下さってありあとうございます」という感謝のメッセージとともに、花王の商品が送られてくるという経験をする。自らの行動に対して、花王から感謝される。消費者にとってその感動は、強力なブランド体験となる。
■コミュニティの「荒れ」は、いざというときのための対処と、常連がつくる空気により牽制を持って迎えられる。しかし、より詳細に企業コミュニティの現場を観察していると、少しは荒れたほうが活性を見せるというようなケースにも遭遇する。
■マス・マーケティングはPDCAサイクルを敬遠してきた。宣伝広告では反応を測定することが難しかったことがその主な理由だ。
■投稿する人20%、ROM80%(うち、内心は投稿したいと思っている84%)
■企業コミュニティの設計に際し大切なもの
・役割の設定:ルールを作って、ある決まった役割をお願いすることで、肩の力が抜けて楽になる
・報酬の設定:投稿したり、誰かの投稿に拍手をしたりする行為に報酬をつけることで、参加者の心理的な障壁は下がる。
■サポーターをとりまくネットワークの分析
・一人のサポーター
・だいたい20人程度のフォロワー
・そのフォロワーの周りを100人ほどのライトな参加者が取り囲む
・そのまわりには、自らは参加することはしないが、外からコミュニティの様子を覗いている閲覧者が1000人ほど集まる
■ライフタイムバリュー(LTV)
LTVはPDCAサイクル同様、マス・マーケティングの会社には馴染みの薄いものだった。なぜかといえば、宣伝広告の指標は新規獲得が中心であったからだ。
LTVを向上させるためには、ブランドに対する満足度を高めることが必要となる。
■企業コミュニティは、参加者の帰属意識を高める。
このような企業コミュニティを育てるためには、交流量と感謝量という2つのKPIを追っていくことが必要となる。
■「外部にある評価サイトとかとくらべると、うちのコミュニティの発言は違う。圧倒的に違う。評価サイトは上から目線だし、なんか、主観的な意見自体が敬遠されてしまう雰囲気があるでしょう?でも、結局は「好き」って気持ち自体とても主観的なものだから。」(ドクターシーラボ西井氏)
■日本のマーケティングは、調査が不足している
大量生産・大量消費の時代が長く、プッシュ型営業の姿勢を取る企業が多い。特に顧客の声に耳を傾けるインタビュー調査が弱い。
■企業コミュニティを通して、顧客のひとりひとりが見えてくると、企業側にも気持ちが入ってくる。我が事化があがるのは、顧客の心だけではない。企業コミュニティがもたらす効果として、忘れてはならないものは、企業の担当者の意識の変化である。
■7つの成果
・参加者の意識向上
・企業サイトへの掲載
・広告・PRへの転用
・外部の検索サイトからの閲覧者増加
・ユーザーを把握
・オンライン・グループインタビューへ
・顧客と企業の距離が縮まっていく
■ソーシャルメディアで失敗する人、スモールワールドに住むことができず、ネットワークの影響が「見えない人」の世界観は、「つながりを軽視する」という態度に集約できる。それは、消費者を受動的で操作可能な存在としてとらえる消費者間に通じる。
■20世紀から21世紀へ
・20世紀:ブランドをひとつの円として考えると、この中から最も良く見える「ベストショット」をどう切り取るかということが送り手側の関心事
・21世紀:商品や企業のブランドの円を、そのまま消費者に伝えたほうがよいという姿勢が加わってくる。円の一部をベストショットで見せようとしても、円の外部で活動する消費者が円の内部のほかの部分を見つけ出し、それを発信してしまうからである。
ソーシャルメディア進化論 武田隆 ダイヤモンド社 2011-07-29 by G-Tools |