愛されるアイデアのつくり方 (鹿毛康司)は、企業の広告やコミュニケーションを語るなら、絶対に読んでおくべき本だと思います。

4872905660> 「愛されるアイデアのつくり方」は、消臭力で有名なエステーの宣伝部長をされている鹿毛康司さんが、広告のあり方について考察している書籍です。
 献本を頂いていたので、遅ればせながら書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
 エステーのテレビCMというと、「この部屋におうよ」やシュパッと消臭のお殿様など、インパクトのあるテレビCMで有名ですが、その数々のテレビCMを手がけられているのがこの鹿毛さんです。
 私自身、セミナーでご一緒させて頂いたことがあり、そのプレゼンに衝撃を受けたのですが、実は雪印事件の時の信頼回復の広報をされていたりという背景もあり、異色の宣伝部長ということができるでしょう。
 
 しかも、自らテレビCMに登場していて、宣伝部長としてのツイッターアカウントを持っていたりと、何から何まで規格外の方です。
 
 そういう意味で、エステーのアプローチは「奇策」やネタ重視という印象が強いかもしれませんが、本書に書かれているように実は鹿毛さんが広告の本当に本質的なところを突き詰めているから結果的に奇抜なアプローチを選択していると言うことが分かってくると全ての見え方が大きく変わってきます。
 実際、震災後に生まれたミゲルくんの消臭力のコマーシャル、それを起点にツイッターでのやり取りから生まれたTMRevolutionの西川さんとのコラボCMのくだりを見ていると、鹿毛さんがいかに本質を大事に日々真剣にCMのことを考えているか伝わってくると思います。
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 そのあたりは昔日経ビジネスのコラムにも書いたのでそちらを見て頂ければと思いますが。
消費者と企業が一緒に広告を作る新しいカタチ
 この本は広告やアイデアについて語られている本ではあるのですが、ノウハウ本と言うよりも鹿毛さんの生き方が詰まっている本と言えます。
 広告系の本を読んで正直この本ほど思わず泣きそうになってしまった本はありません。
 
 全ての広告やコミュニケーションに携わる方に読んで欲しい本だと思います。
【読書メモ】
■2000年に「雪印事件」が起きる。
 僕は、現場に長く留まり、被害を受けられた方々への対応を続けた。
 その後、有志7人で「雪印体質を変革する会」を立ち上げ、信頼回復に向けて全力を尽くした。このとき、企業に勤めるビジネスマンとして、お客様と「心」の通うコミュニケーションを取ることがいかに難しいかを痛感させられたものだ。
■震災前に撮影したCMを「新作」として放映していいのか?何もなかったような顔をして流すのが、企業として、人間として、まっとうなことなのか?
 僕には、とてもそうは思えなかった。


■そもそも、CMとは暴力的なコミュニケーションである。
 そのCMをみたいと思っていない人々の目に、突然飛び込んでくるものだからだ。
■「今こういう時期だからこそ、CMをやるべきだと考えています。CMをつくってもいいでしょうか?」
 一瞬の間があった。そして、社長は自分に言い聞かせるかのように言った。
 「こういう時こそ志を見せるってことだな・・・」
 
■その会社の「広告力」は「社長力」を超えることはできない。
 僕がエステーでユニークなCMを作り続けることができたのは、鈴木社長のおかげだったからだ。
■ヒットCMの公式は「有名人×放送回数」だ
 そのためには、とにかくカネが必要だ。しかし、僕はそこでは勝負できない。
■当時、「連続ドラマCM」は、業界では「奇策」と囁かれたものだ。
 しかし、僕に言わせれば「奇策」などではない。業界の多くの人が常識にとらわれて「思考停止」になっているから、「奇策」に見えるだけではないのか?
■僕はいつだった「常識」を見つけたら胸が騒ぐのだ。
 なぜなら、そこに「突き抜けたアイデア」があるからだ。
■CMづくりの本質
・相手のことを知る
・自分のことを知る
・相手と自分をつなぐアイデアを見つける
■「現実をとことん見る」「まずは現場に行く」
■調査会社から上がってくる資料から、「本質」をつかみ出すことなどできるはずがないのだ。
■ビジネスマンが陥りやすい勘違い
 一人一人のビジネスマンは「自分」という人格をもって生きている。
 しかし、企業コミュニケーションを行うとき、僕らは「自分」という個人人格ではなく、必ず「企業人格」を背負わなければならないのだ。
■上から目線を脱するために
・お客様が何を考え何を思っているのかを事実確認する
・その際に自分の目線の高さを修正しながら考える
・お客様に「教える」という姿勢ではなく「気持ちよく伝わる何か」を探し出す
■CMづくりには必ず「遠心力」が働く。少し気を抜くと、この「遠心力」が「想い」がもつ求心力を凌駕してしまう。
■僕はプランニングの段階でありとあらゆるクレームを想定する。そして、それをクリアするためにあらゆる手立てを講じる。
■「コンセプト」「インパクト」は使用禁止
■僕は基本的に競合コンペは行わない。ひとつのチームで、何度も何度もCMをつくり続ける。そして、できる限りチームで同じ体験をするように心がけている。
■つくり手が「手法」にこだわり出すとき、そこにはお客様がいない。
■僕には根本的な疑問がある。その「ソーシャル××」というものはあくまで「ツール」である。とてもいいツールだが、その理由は「自動拡散できるから」ではない。それを使う人のぬくもりが感じられるからだ。
■私は母ひとり子ひとりで育てられた。
 母は母乳が出なかったらしい。
 それほど裕福でもなかったが、母は、一番高い粉ミルクを買って私を育ててくれた。
 母にとって一番高いものを買うことが愛情だった。
 そして、それこそが雪印というブランドだった。
 そのブランドが世の中から否定された。
 お願いです。母の人生を否定しないためにも、がんばってください。
■エステーは、意表をついてびっくりさせるのを狙っていると言う人がいる。よくわかっていない人ほどそういうコメントでかたづけようとする。しかし、僕は決して「意表をつく」ことを目的としたり、それを狙っているわけではない。
■ブランドはみんなのもの---この信念こそが「愛されるアイデア」を生み出す糧となったのだ。
■「誰かが傷つくような笑いはやりたくない」(なだぎ武)
■「だからやらないではなく、だけどやる」(北川正恭)
 何かをやろうとするとき、やらない理屈ならヤマのように出てくる。
 一方で「やる理由」なんて見つからない。だからほとんどの人がやらない。

4872905660 愛されるアイデアのつくり方
鹿毛康司
WAVE出版 2012-05-08

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