マーケティング戦略の未来(ブーズ・アンド・カンパニー)

4532317185 「マーケティング戦略の未来」は、タイトル通りマーケティングの未来について考察している書籍です。
 献本を頂いていたので、遅ればせながら書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
 この書籍では著者グループであるブーズ・アンド・カンパニーが、俯瞰的な視点からマーケティングの未来について分析されています。
 特に米国と日本の広告代理店の位置づけや変化の違いについての考察は、第三者ならではの視点から分析されていますので面白いです。
 マーケティングの未来を考えてみたいという方はもちろん、マーケティング業界の構造自体を学びたいという方にも参考になる点がある本だと思います。
【読書メモ】
■消費者は、買いたい時に情報を検索すればいいということに気づき、当分その商品は買わないという状態で広告に接しても、その内容を記憶にとどめようとしなくなった
■デジタル時代の新たなマーケティング環境には「常時接続(Always On)という特徴がある
■スーパーCMO
 従来のマーケティング担当役員たちよりもメディアに精通し、より広告の効果測定を重視している。単にマーケティング・キャンペーンを管理したり、広告業者を監督したりするだけでなく、会社の業績やイノベーション、成果を伸ばすことにこだわる
■ナイキのマーケティング戦術は、洒落たキャッチフレーズや印象的なロゴをちらつかせることから、消費者の体験を重視するものに変わったのである


■初回のテレビ番組の企画や制作にP&Gが積極的にかかわったのと同じように、現代のマーケティングは、新たな種類のデジタル・メディアやインタラクティブ・メディア、その他の革新的なマーケティング形態を構想し、創出し、それに投資しなければならない
■「消費者は馬鹿ではない。自分の妻だと思え」(ディビッド・オグルヴィ)
■消費者への洞察を得ることの価値の高さを認識するにつれ、マーケター、広告代理店、メディア企業の三者は、この能力をめぐって激しい競争を繰り広げることになる。
■P&Gの長期目標は、4000万~6000万世帯に直接メッセージを伝えられるようなリレーションシップ・マーケティング能力を構築することである
■いずれ広告の歴史において、今日のマーケティング環境は「マーケティングの実務が現実に追いついた時期、すなわち消費者の方が立場が上であることを広告主がようやく認識しはじめたとき」として知られるようになるであろう
■「三年前にわれわれは、従来のようなマジックミラー越しにフォーカス・グループ・インタビューを行うアプローチを捨て、エスノグラフィーアプローチを利用して洞察を得る方法に方針転換した。消費者が何をしていると言っているかではなく、実際に何をしているかを観察することが、大きな違いをもたらした」(ユニリーバ ケヴィン・ジョージ)
■新たな広告効果指標への移行に伴い起きている影響
・メディアの増殖と視聴者・読者の分散の結果、これまで広告の「貨幣」とされてきた視聴者への露出度やリーチのメディアの価値指標としての説得力が薄れてきた。
・新たな指標に対する期待から、広告主の間でのデジタル・メディアの人気が上昇してきた。
・広告と売上の関係を追跡する能力が継続的に向上し、正確性が高まってきている。
■アバブ・ザ・ラインからビロー・ザ・ラインへの支出のシフトは、ビロー・ザ・ライン支出の価値をマーケターがより腰囲に測定し証明できるためと考えた方が説明がつく
■IAGは独自のオンライン消費者パネル調査を用いて、テレビコマーシャル、プロダクト・プレースメント、スポンサー活動、劇場コマーシャルなどの効果を測定している
■広告産業の世代別変化
・第一世代(1880~1950):基本的に売るための提案
 「この商品があなたの必要とするものを与えてくれます」
・第二世代(1960~1970):クリエイティブ革命
 「私たちはあなたの興味をひき、楽しませ、あなたを良い気分にさせます。だから私たちを覚えて下さい。」
・第三世代(1980~1990):アラカルトの専門広告代理店
・第四世代(2000~)  :ビジネスの成長を助けることを重視
 「われわれはみな、お互いの世界にいる。お互いをもっとよく知れば知るほど、商品やサービスのマーケティングおよび広告が、より有益で適切になり、娯楽性の高いものになる」
■本当に意味のある指標は一つしかない。それは購入された自動車一台あたりにかかったマーケティング費用だ」(メルセデス・ベンツ オラフ・ゲットゲンス)
■第四世代を目指す広告代理店
・WPP ITおよび広告以外のサービスへの移行を積極的に推し進めるグローバル広告代理店
・ピュブリシス/デジタス デジタル広告の工業化とグローバル化を進めるグローバル規模の広告代理店
・クリスピン・ポーター&ボガスキー デジタル世界におけるクリエイティブの再発明を進めるマイアミビーチに本社を置く広告代理店
・ネイキッド・コミュニケーションズ メディア戦略とメディア・コミュニケーション・プランニングに特化することにより、グローバルなニッチ市場を自ら作り出したロンドンに本社を置く広告代理店
■広告代理店の未来が楽観視できる理由
・消費者にとってのメディアの選択肢が急速に拡大するため、広告が、引き続きこれらの新たなプラットフォームを資金面で支える経済メカニズムとして主要な役割を果たす
・メディアとマーケティングがますます複雑化する世の中において、マーケターは客観的かつ知識豊富な第三者のパートナーを求める
・プライベート・ブランドが台頭し、ブランド数が増殖している商品カテゴリーにおいて、マーケターが差別化したメッセージを、正しい時と場所で正しい消費者に届けることを手助けできる代理店のパートナーとしての重要性は、かつてないほど高まっている
■大手マーケターがメディアを所有することは、テレビの黎明期にまでさかのぼって実証済みのマーケティング・モデルである
■デジタルを用いたショッパー・マーケティングにおいては、目的を明確化した上で、その目的にふさわしい手段を選択し消費者の購買行動にうまくマッチするように設計したうえで、本格展開の段階に進むことが必要になる
■間違いなく「日本が特殊」と言えるのは、電通、博報堂という大手総合広告代理店の影響力がきわめて強い点である。
 日本の大手広告代理店はメディアの代理店であり、同時に広告主の代理としての職務も行うという、まさに「特殊」な成り立ちとなっている。その上、日本の広告業界は世代交代を経験していない。
■日本の広告代理店業界では、テレビ広告の出稿料の10%前後をコミッションとして受け取る商習慣が確立したが、テレビ広告枠の料金が高止まりしてきたことから、この収入がきわめて大きくなった。そのために、テレビ広告の業務を確保するための多大な「無償サービス」が提供されるようになった。
 消費者調査のデータ提供や、マーケティング・プランの作成支援など、本来は有償で提供すべきサービスが、テレビ広告の「おまけ」として無償で提供されるのである。
■広告主の発注部署の側としては、社内で上司の決済を仰ぐ必要なく、マーケティング・サービスを無償で外注できるのであり、都合よく使うことができる。
■フィー制度をうまく機能させるためには、広告主側に追加的な手間が発生する。それをせずになんとなく仕事を頼めてしまうのがコミッション制度なのである。

4532317185 ビジネスの未来〈4〉 マーケティング戦略の未来
クリストファー・ヴォルマー ジェフリー・プレコート ブーズ・アンド・カンパニー
日本経済新聞出版社 2011-08-26

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