「ネットビジネスの終わり」は、切込隊長BLOGでお馴染みの山本一郎さんの書籍で、以前ご紹介した「情報革命バブルの崩壊>」の続編とも言える本になります。
献本を頂いていたのですが、読書メモを書けてなかったので、書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
一般的にネットバブルの終りについては良く語られていますが、インターネットビジネス自体が構造的な転換点に差し掛かっていることはあまり語られることがありません。
そんなインターネットビジネスが抱えている根本的な問題を切込隊長らしく、ばっさりえぐっているのがこの本です。
個人的にも、もうネットの中だけとか、いわゆるネットベンチャーだけを見てインターネットビジネスを語る時代は終わるだろうと感じていた人間ですが、それ以上に深刻な現実が横たわっていることに、考えさせられるところが多々ありました。
特にメディア事業に関して印象に残っているのは、既存の新聞記者の年間コストが一人当たり2500万円近くかかるのに対して、月間10億PVのネット企業は年収450万円の人間4人で十分というくだり。
私自身もメディア業界の片隅にいる人間ですが、このあたりのコスト感覚の断絶は、こうやって数字にされると筆舌に尽くし難いものがあります。
特にネット関連事業に関して、来年以降の中長期プランを考えている方には、参考になる点が多々ある本だと思います。
【読書メモ】
■私たちが直面している2つの社会的な作用
・知識の分散化・小口化
・資本の高度化・集積化
■「良いモノを作ることが成功に繋がる」から
「作り上げた良いモノを売るための仕組みを、どう構築すべきか」へ
■スウェーデンの国家予算よりも、いやまエリクソンのグループ世界売上の方が大きい
■売るための仕組み、マーケティングと実際の製品が組み合わさってはじめて「ビジネス」
■情報はタダと思いがちなネット界隈であるが、実際には取材するコスト、執筆する有識者のコスト、編集にかかるコスト、報道体制を維持するためのコストなど、さまざまな費用がかかって初めて情報産業は成り立っている。
■うがった見方をすれば、ネット時代が到来し、新聞の読者がネットに奪われているので、競ってウェブに進出して情報をネットで提供したが、そのコストをまかなうための広告事業すら黒字に転換せず、逆にウェブで見られるがゆえに有償読者離れを促進してしまい、やればやっただけ赤字を垂れ流す構造である。
■我が国では新聞記者を一人雇用するのに年間約1100万円の直接費用がかかり、社会保険やオフィス、交通費、取材費など必要なコストを含めると2500万円程度の費用がかかる
一方、一般的なIT企業がウェブを維持するのに必要なランニング要因は年俸わずか450万円程度が相場で、PVが10億を超えるニュースサイト部門でもそれをハンドリングするのに4人程度でまわしている。
■ウェブでの事業展開に限定して言うならば、新聞社や出版社は情報革命の名の下にその売り物である記事を勝手にネットで複製され、タダで読まれ、質の低い記事と煽りタイトルによる読者競争に巻き込まれ、無料でウェブサイトを開設して自らも無料で記事を提供しなければならない不利な競争に巻き込まれた、ということに他ならない
■国内においては、Yahoo!の規模と収益性は群を抜いており、考えようによっては彼らが既存の情報産業に対する確信犯的なフリーライダー(ただ乗り)になっていると指摘することもできよう。
■アニメ制作会社が苦しい理由
・アニメを好きな層は基本的に貧乏であること。
・まともにアニメを制作しようとすると、他の番組制作の制作単価に比べて倍以上のコストがかかる
(ガンダムSEEDが30分1本あたりの制作費が3300万円。ドラマはその半分。トーク中心のバラエティは3分の1以下のコストで済む)
■携帯電話向けゲームアプリは需要が完全に一巡し、市場の停滞から飽和後の縮小に転じた。
■アニメ業界とゲーム業界を中心に、経営課題をファイナンスの面から解説するに当たって、どうしても避けては通れないのはセグメント化された市場の小ささ、顧客のコア化である。
■各人の利害は情報技術の進展によってより先鋭化し、競争は激化し、対立構造が顕著になっている。
ワイドショーで語られる犯罪者のプロファイルでは、その個人がオタク的小児性愛趣味を持っていたというだけでゲームやアニメが悪者に仕立て上げられる。これは視聴者がこれらの属性を持たず、遠い存在であるから平気で叩けるのである。
■むしろ、情報化社会が私たちに示唆したことは、もっぱら人間の知性の特徴的な機能や能力の限界を意味する二点である。
・人はすべての知識を支配することができないこと
・相反する2つ以上の知識があったとき信じられるもの・信じたいものを事実として受け入れること
■それは事実ではないと指し示す百の再現性あるデータが目の前に並べられたとしても、事実ではないがそうであるべきと信じる人の前には無力であり、そうであるがゆえに社会の中でも現実と理想は永遠の対立を起こす。
■小粒な一発芸の企業が短期的な高収益事業を作り上げて経済のメインストリームに躍り出ようとしているが、国家の経済を支えるようなビッグビジネスとして相応しい風格や行動指針を示してリーダーシップを発揮しようという甲斐性はまったく見られない。
■行き過ぎた資本主義のメカニズムは、ネット社会においては逆に情報共産主義とも言うべきジレンマを引き起こす。
(「ネットの情報は無料で全員に共有されるべき」という共産主義的で反拝金主義の風潮)
■専門とされる情報量が増大することで、その専門を修めるための学習は常に長くなり、他の専門との相関を作り上げることは極めて困難となる。
■万人の万人に対する闘争
フラット化された情報社会は、必ずしもすべての人に等しく、価値のある情報を恵み与える存在ではない。むしろ不公正であり、能力のあるものは有益な情報を得て栄え、生かせないものは塔の底辺で這いつくばる。
ネットビジネスの終わり (Voice select) PHP研究所 2009-10-22 by G-Tools |