「富の未来」は、「第三の波」や「パワーシフト」などの書籍でも有名なアルビン・トフラー氏の書籍です。
かなり以前に買って読んでいたのですが、読書メモを書いてなかったので遅ればせながら書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
「富の未来」というタイトルだけを見ると、いわゆる資本主義にある金銭的な「富」の未来について書かれている書籍を想像されると思いますが、この本で中心的に語られているのは非金銭経済という、いわゆる金銭的な価値や指標にあらわれてこない経済についての考察。
個人的に「クラウドソーシング」や「ウィキノミクス」のような集団の活動が価値になったり、相互に助け合ったりと言う世界観がネットの可能性として非常に気になっているのですが。
この富の未来では、そういった狭義の非金銭経済だけでなく、産業全体のトレンドとして経済活動の重心がシフトしている点が詳細に考察されています。
個人的に読んでいて辛かったのが、日本は第二の波である工業社会においては大成功をおさめることができたのに対し、その結果として、「工業時代の硬直的な規則によって、柔軟性をもつことがほぼ不可能になっている。工業時代の残滓である硬直的な規則が緩められるか置き換えられないかぎり、日本は明日への競争で遅れ続けるだろう。」と指摘されていた点。
思い当たる節が多々あり、この問題の根の深さを痛感させられます。
将来の日本を考える上で、価値観の本質的な変化が求められていることを理解したいという方に是非お勧めしたい本です。
【読書メモ】
■富の未来を予想するには、金銭を得るために行っている仕事だけでなく、「生産消費者」として誰でも行っている無報酬の仕事にも注目する必要がある
■三つの富の体制
・第一の富の波:農業文明。限られた範囲内ではあるが、求めるものを自然が生産するようにすることが可能になった
・第二の富の波:工業社会。あらゆるものが大規模化し、大量生産、大衆教育、マス・メディア、大衆文化が生まれた。
・第三の富の波:知識経済。生産、市場、社会の脱大規模化、細分化をもたらしている。
■急成長する新しい経済の要求と、古い社会制度の構造の惰性との間に大きなズレがあるという問題にぶつかっている
■一日24時間週七日の未来
時間の高速化と不規則化に関連して、時間に関するもうひとつの変化が起こっている。定時型の活動から連続型の活動への変化である。
■知識の性格の違い
・知識はその性格上、非競合財である。百万人がひとつの知識を使っても、それで知識が減るわけではない。
・知識は無形である。触ることも撫でることも叩くこともできない。
・知識は線形ではない。ごく小さなひらめきが、大きな成果を生み出すこともある。
■ネットワーク産業
誰かが製品を使うことで、他の人にとってその製品の価値が高まる。
■過去五十年の四つの基本的な変化
・ネットワーク産業の成長。
・知識製品に、使っても減らないという性格があること
・非マス化と製品のカスタム化が急速に進んでいる
・資本が世界的に移動するようになった
■工業時代の想定に基づいて改革を行っていけば、意図は正しくても、問題が悪化するだけになる。
第三の波に基づく対応が是非とも必要な状況に第二の波の戦略を適用することになり、失敗するのが目に見えている。
■金銭経済と非金銭経済が互いに強化しあい、関連しあって富を創出し、健康を維持する全体的な体制を形成していく道筋のうち、とくに重要な部分を組織的に調査すべき時期が来ている。
■生産消費者が資本財に大規模に投資しており、その結果、いまのところほとんど統計がないが、生産消費で算出される価値が増加している
■拡大を続けるインターネットの情報内容のうち一部は、人類の歴史でも最大級のボランティア活動によって作られている。生産消費者はインターネットの構造を作り、情報内容を提供して、目に見える経済での技術革新の加速をもたらしている。
■金銭経済は劇的に拡大する勢いにある。そして、非金銭経済での活動が金銭経済に与える影響は、ますます大きくなっていく。生産消費者は功績を認められていないが、今後の経済に貢献する英雄なのである。
■科学は当初、報酬が得られる職業になっていなかったので、初期の科学者はほとんど全員が素人であった。たいていは別の職業で生活費を稼いでいて、歴史に貢献したのは余暇を使った生産消費者としての活動によってであった。
■生産能力性
生産消費者が支払の対象にならない価値を生み出し、それを金銭経済に振り向けるにとどまらず、金銭経済の成長率を高めている
■金銭経済はもっと大きな富の体制の一部でしかなく、ほとんど注目されていないが、「生産消費活動」と呼ぶものに基づく世界的で巨大な非金銭経済から提供される価値に依存している。
【下巻】
■変化が可能だとする考え方自体が、世界各地の多くの人々にとって、特に貧しい若者にとって革命的である。(中略)変化は不可能だと考えているかぎり、未来をつかみとるための行動を起こそうとする人は、まずいない。
■工業時代に確立した古い通貨が骨董品になる可能性
・準通貨の増加
・物々交換の増加
・無形の部分の増加
・世界金融ネットワークの複雑化と普及
・今後実用化される画期的な新技術
・世界経済が、投機にゆさぶられている事実
・世界の地政学的構造が今後数十年に地殻変動を起こすと見られる
■日本の成功の秘訣
・学べ、学べ、学べ
・最新知識の商業利用
・スピード
■貧富の格差の縮小なら、貧乏人の生活水準をまったく引き下げなくても、金持ちを貧しくすれば達成できる。
これに対して産業革命は貧富の格差を劇的に拡大したが、同時に、貧困を減らした。
■石油の時代の終焉
基本的な原料は遺伝子になる(ロバート・E・アームストロング)
このため、砂漠の産油国から生物多様性の面で豊富な資源をもつ熱帯地域に、地政学上の大転換がおこる
■貧困問題の解決における技術以外の障害
・強い伝統であり、伝統を維持している強力なフィードバックの仕組み
・教育と、教育が普及していない事実
・農村でのエネルギー不足
■(日本は)工業時代の硬直的な規則によって、柔軟性をもつことがほぼ不可能になっている。工業時代の残滓である硬直的な規則が緩められるか置き換えられないかぎり、日本は明日への競争で遅れ続けるだろう。
■(日本が必要なのは、失敗しても)再出発が可能な文化
■日本の集団決定方式は今後衰えていくだろう。高速の変化から圧力を受け、個性を重視する若い世代が力をつけていくからだ
■教師は生徒を教室に閉じ込めているのだが、生徒の耳、目、心はサイバー・スペースをさまよっているような状況にある
■「悲観論者が天体の神秘を解明したことはないし、地図にない土地を発見したことはないし、人間の精神に新しい地平を切り開いたこともない」(ヘレン・ケラー)
■新しい文明が古い文明を浸食する時期には、二つをくらべる動きが起こるのは避けがたい。過去の文明で有利な立場にあった人や、うまく順応してきた人がノスタルジア軍団を作り、過去を賞賛するか美化し、まだ十分に理解できない将来、不完全な将来との違いをいいたてる。
■生産消費による金銭経済への刺激の効率をもっと高めるにはどうすればいいのか
報酬が支払われてこなかった貢献に報酬を支払う方法はないのだろうか。おそらくコンピューターを使った多角的なバーターか、ある種の「準通貨」が使えるのではないだろうか。
■第三の波の革命的な富では、知識の重要性が高まっていく。その結果、経済は大きなシステムの一部という地位に戻り、良かれ悪しかれ、文化、宗教、倫理などが舞台の中央に戻ってくる。
富の未来 上巻 山岡 洋一 講談社 2006-06-08 by G-Tools |