「新しいPRの教科書」は、米国でソーシャルメディア時代のPRの提唱者として非常に有名なブライアン・ソリス氏が書かれた書籍です。
献本を頂いたので、書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
副題に「ソーシャル時代に求められる「知」と「技」とあるように、この本では、ソーシャルメディアを活用したPR2.0の提唱者であるブライアン・ソリス氏ならではの視点から、これからのPR業界のあるべき姿や、手法について考察されています。
ブライアン・ソリス氏は、米国のデジタルPR業界における論客の一人です。個人的にも以前から注目していた人なのですが、いつのまにか「グランズウェル」の著者のシャーリーン・リー氏が設立したAltimeter Groupの仲間入りをしていたようですね。
自ら実践して、いわゆるPR業界ではない業界に身を投じたというところでしょうか。
この本の原題は「Putting the Public Back in Public Relations」
直訳するなら「パブリックをPR(Public Relationsに戻す」でしょうか。
日本語の題は「新しいPRの教科書」となっていますが、著者の本意は、マスメディアリレーションだけを対象としている現在のPRを、そもそもパブリックが対象であったはずのPRに戻す、という、ある意味「原点回帰」にあるように感じています。
個人的にも「カンバセーショナルマーケティング」のプレゼンをする際に、良く江戸時代の商売を考えればソーシャルメディア時代のマーケティングは簡単だという話をしていますが、同じことがPR業界にも言えます。
この本は、ソーシャルメディアによる変化で戸惑っている企業の広報担当や、PR業界の方々はもちろん、ソーシャルメディア時代のPRの変化について考えてみたい方には参考になる点が多々ある本だと思います。
この本が気に入った方は、先日紹介した「デジタル・リーダーシップ」も合わせてどうぞ。
※ちなみに、この書籍にもたびたび言及されている、ブライアン・ソリスも設立に携わった「Social Media Club」の日本支部立ち上げを私の方で担当することになりました。
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【読書メモ】
■PR業界に求められる姿勢は「今のPRのどこが悪いのか?」ではなく、「変化の激しいこの時代に、PRの効果を高めるためにできることはないか?」である。
■PRの効果が現われない理由(ジェレマイア・オーヤン)
・対話と独り言の違いがきちんと理解されていない
・マーケティングはストーリーを語るものであって、プレスリリースで味気ない事実を発信することではない
・招待する相手、メッセージを送る相手に一般消費者を含めていない
・社内でPRを担当する部署が複数ある(PRを正しく認識していない証拠)
■結局、PR会社の質が悪いということだ。PR会社に敵意を持つ人が多いのは、情報を操ろうとしたり、上辺だけきれいに見せようとするからだ。今日の消費者は、PR会社よりも近所の人やブロガーの言葉の方を信じる。(クリス・ハウアー)
■PRは次のような流れに変わった。
・PR→既存メディア→顧客
・PR→新しいインフルエンサー→顧客
・PR→顧客
・顧客→PR
■PR業界の仕事術(ブライアン・ソリス)
・PRの目的は人とのつながりを持つこと。これを忘れてはならない。
・何をPRするのかと自分に問いかけ、その答えを出してから消費者に訴えること。
・PRは与えられた作業をこなすだけのものではない。
・友人の前か鏡の前で、PRしたい内容を一、二分以内で話す練習をすること。
・量より質。良好な人間関係を築く相手は自分で探すこと。
・業務以外でも日頃から対話をするよう心がけること
・リストではなく人間関係を作ること
・顔が見える活動をすること
・愚痴や言い訳を口にしないこと
・プレスリリースを送る時は、情報を要約し、送った相手にとってどこが「有益」なのかを分るようにすること
・PRの未来はあなたにかかっている。
■2004年にブログ「グランズウェル」でブロガー倫理規定を提案(シャーリーン・リー)
■ソーシャルメディアでは、会話に勝るものはない。
そして有益な会話は、互いに信頼と尊敬を抱き、メリットを感じ、また話したいと思うところから生まれる。
■これからのPRは、売り込みではなく対話だと理解しているなら、「メッセージ」「オーディエンス」「ユーザー」といった言葉は使わなくなるはずだ。
■PRする側とインフルエンサーは未だ微妙な力関係にある。
インフルエンサーは必ずしもPRに好意的とは限らない。むしろ彼らはPRの存在そのものを疑問視していて、情報を共有するまでのプロセスの見直しを迫っている。一方、PRする側からしてみれば、彼らからPRを守らねばならないという意識がある。
■上位にランク付けされていないブロガーこそが真のインフルエンサーであり、最高の人材なのだ。
真のインフルエンサーは、顧客と同じ立場にいる人たちだ。
■「ブロガー一人ひとりに対応する時間などどこにある?マスメディア対応に加えてブロガーと一対一の対応をしようと思ったら、一日に何時間もとられてしまうではないか」と思う人もいるだろう。
はっきり言おう。その時間をつくりなさい。
■オンライン動画が企業経営者にもたらすメリットと動画の取り入れ方
・時間の節約になる
・世間の人々にむかって直接話ができる
・ネットワーク効果の恩恵にあずかれる
・機会を再利用できる
・時間を問わず、世界中の人々に一対一で語りかけることができる
■ブログを開設しなければ否定的なことは言われなくてすむと思うのは、少々思い込みがすぎるのではないだろうか。
ネット上で自社のことが話題になっても、その場に関係者がいなければ否定的なことを言われないか?当然そんなことはない。
■ソーシャルメディアの出現により、PRは「売り込むこと」から「個々と誠実に向き合うこと」へと変わった。
■90パーセントが人、10パーセントがテクノロジー
■PR業界の問題点(ロバート・スコーブル)
・PRするもののことをきちんと把握し、どういう人々にどんなメリットがあるのかを理解している人が少ない
・メッセージを一つ発信すれば、それですべてのターゲット層を網羅できると思い込んでいる。
・ジャーナリストや顧客のことを「オーディエンス」と一括りにして一方的にメッセージを発信し、彼らが自分の意志でさまざまなグループを形成している事実を無視している。・時代遅れのツールを使って、メッセージの受取手のニーズをろくに考えもせず、不特定多数に向けて「一方的なメッセージ」を発信している。
■今後、PRは「マーケティング」ではなくカスタマーサービスの一環として活動するケースが増えていくだろう。マーケティングという肩書きをはずし、本格的に人々の声に耳を傾けはじめよう。
■コミュニティマネージャーに必要な四要素
・コミュニティの一員として対等な関係を築こうとする姿勢
・自社製品の良さや最新情報を伝えようとする姿勢
・コミュニケーションスキルを磨く
・コミュニティで得た情報を、今後の製品やサービスに活かそうとする姿勢
■自分の言いたいことを誰かが耳にしたり共有したりすることを、100パーセント思い通りに操ることは不可能だ。とはいえ、こちらの思い通りに認識してもらえるよう誘導することはできる。
■テクノロジーに詳しいPR担当の手法(ロバート・スコーブル)
長い期間をかけて商品のことをふれ回るのではなく、知らせるブロガーの数を絞り、公式発表の数日前に一斉に彼らに向けたリリースを配信する方が効率的
■WOMMAのブロガーと交流をはかる際のマナー
・つねに誠実な態度を心がけ、誤った情報を意図的に流すことはしません。別の誰かに頼んでブロガーを騙すことも絶対にしません。
・ブロガーと交流を持ったり、ブログにコメントを残す場合は、自分の氏名と勤務先を明記します。
・ブロガーが定めたルールに反する行動はとりません。メッセージやコメントを投稿するときは、各コミュニティのガイドラインに従います。
・ブロガーにウソをつかせることは絶対にしません。
・未成年者と交流を持ったり、未成年者を対象にしたブログに書き込みをするときは、最新の注意を払います。
・ブロガーの収入に関係する広告やアフィリエイト・プログラムには関知しません。
・コメントの投稿や情報の配信に自動送信システムは使いません。
・ブロガーへの謝礼が利益相反に該当する可能性を考慮し、発生した報酬やインセンティブをすべて開示します。
・ブロガーの意見を求めて製品を送っても、彼らにその製品を批評する義務を負わせません。ブロガーが返送を望むなら応じます。
・ブロガーが受け取った製品に関する記事を書く場合は、製品を入手した経緯も公表するよう事前に依頼します。
■目標設定と効果測定
1.社内の経営陣や幹部が重視するポイントを確認する
2.そのポイントに基づいて、会社の現状を把握し、競合他社の状況をはじめ比較すべき対象と自社を比較する
3.比較したデータを他の部署と一緒に検討しながら、PR活動を通じて達成可能な目標を定める
4.目標を定めたら、達成に必要なアクション、ツール、計画を逆算して決める。
5.ステップ4で定めた活動にかかるコストを算出し、その他のブランディング活動にかかるコストと比較する。
■ソーシャルメディアマップ
メディアの性質、カルチャー、テーマによって会話を分類し、それぞれの会話の量、範囲、広がり方を図で表し、相関関係が一目でわかるマップ
新しいPRの教科書 ブライアン・ソリス Brian Solis ディアドレ・ブレーケンリッジ Deirdre Breakenridge 花塚恵 海と月社 2011-03-28 by G-Tools |