「あなたがメディア!」は、草の根ジャーナリズムのエバンジェリストとして有名なダン・ギルモアさんが出された新しい書籍です。
献本を頂いたので、書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
ダン・ギルモアさんのコンセプトには、前著「ブログ 世界を変える個人メディア」を初めとして自分自身がブログを始めたばかりの頃にかなり影響されたこともありますし、2005年9月に来日されたときにイベントの運営をさせていただいたこともあって、個人的にも勝手に師匠の一人に認定させて頂いている方です。
実は1月にラスベガスのCESに行ったときにラウンジで遭遇して、丁度この本の英語版を紹介してもらったという奇遇も有り、勝手に運命の再開だとか思ってしまったこともあります(笑)。
この本では、そんなダン・ギルモアさんが、この5年を通して得た経験を踏まえて、ブログ時代からリアルタイムストリーム時代に変わった、現在のソーシャルメディアによるメディアの変化をMediactive(行動するメディア)というキーワードから考察されています。
「メディア」というと、情報発信者はテレビや新聞などの企業であって、私たち利用者はつい受動的に摂取する側だと単純に切り分けてしまいがちですが。ソーシャルメディアの普及もあり、私たち利用者側の行動自体がメディア効果を持ってしまったり既存メディアに影響を与えるケースというのが、日々増えてきているように思います。
ネットがバーチャルな空間から、リアルの行動にますます影響を与え始めているのも、重要な変化のように思います。
これからのメディアの形や、私たち一人一人の役割について考えさせられる本だと思いますので、メディアの未来に興味がある方にはお勧めです。
個人的には日本版を出すにあたり、わざわざ3月の大震災など最新の事象を本の冒頭に組み込んで頂いたところに、ちょっと感動してしまいましたが、今の日本にとって価値のある一冊だと思います。
【読書メモ】
■2011年3月の東日本大震災---地震、津波、原発事故というこの三重災害ほど徹底して記録にとどめられた出来事は、歴史上ない。そして個人から報道機関まで、これほど大量のメディアがあふれ出した出来事も。人々が接することができた情報は、空前の規模とも言える。
■メディアが細分化していけば、信頼できない、あるいはもっとひどい情報が、私たちの目や耳に入り込んでくる機会は増える。
それでも、デジタルメディア空間に参加できるチャンスへの期待は、それに勝る。
■メディアクティブ(行動するメディア)
メディアとアクティブ、つまりあなたにメディアクティブになってもらいたいのだ。
■受け身のメディアの消費者から、メディアを使いこなす行動する利用者へ
■メディア消費のルール
・疑ってみる
・自分で判断する
・視野を広げる
・質問をし続ける
・メディアの手法を学ぶ
■我々はスローニュースとでも言うべきものが必要だ(イーサン・ザッカーマン)
スローニュースとは要は、いったん深呼吸してみる、ということだ。
■報道カメラマンの仕事は、遠からず過去のものになっていくかもしれない。しかし、写真ジャーナリズムはますます重要になり、その広がりをましている。
あたなもその一画を担うことができるし、やってみてほしい。
■プロのジャーナリストが信頼される理由はほぼ、”報道の概念”に尽きる
「私は現場にいる。みなさんはいない。さあ現場の様子をお伝えしましょう」
■疑問なのは、市民ジャーナリストの仕事はタダで使えると思いこんでいる報道機関の姿勢だ。
■信頼されるメディアづくりのルール
・徹底的に
・正確に
・公平に
・独立して考える
・透明性を保つ
■FTCは2009年10月、広告における情報開示を推進するための規制策を発表した。
違反者には最高1万1000ドルの罰金つきだ。
もし”利害関係”のある商品やサービスを称賛するのなら、それは広告における推薦行為に該当し、その関係性を開示する義務がある。
■最悪なのは、この規制策が、20世紀のメディアと広告の考え方にとらわれたまま、今の新時代を全く理解していないため、市場と言論の自由を損なう結果になる、ということだ。
■ネットで存在感を持つための2つのポイント
・自分のメディアで発信しているかどうかにかかわらず、自分のこと、自分の仕事が話題になっているのなら、その会話には参加するべきだ。
・メディアで発信し、会話に参加しても、それはまだ道半ば。思い通りに管理できる自分自身のネット上のホームベースをつくる必要がある。
■デジタルメディアの領域における起業家精神のプロセス
・優れたアイディアを手に走り出し、何より自分の熱意に従う
・開発は素早く、協働で。
・立ち上げは、準備万端整う前に。
・当面はβモードと考え、まずは目先の問題から片付けていこう。
・プロジェクトが失敗しかけていると思ったら、そのまま続けてはいけない。
・繰り返すこと。
■競合メディアの特に優れた記事については、今なら完全無視を決め込むのが普通だが、反対にそれを記事として取り上げ、フォローしていくことに重点を置く。
自分たちのジャーナリズムに注力したいなら、競合メディアの記事を積極的に取り上げていくことこそ賢い方法。
■リアルタイム・オークションシステム
カメラマンは速報ニュースの現場のビデオや音声をおさえ、それをオークションサイトに投稿する。購入希望者、特にメディア企業は、電子透かしの入ったサムネイル画像を見ることができ、そして入札が始まる。
■今読んでいるこの本は、バージョン1.0だと考えてほしい。
最初の正式な出版ではあるが、時間とともに変化していく作品なのだと思っている。
あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術 ダン・ギルモア 平 和博 朝日新聞出版 2011-07-20 by G-Tools |