フェイスブック時代のオープン企業戦略 (シャーリーン・リー) にはソーシャルメディア時代の企業のあり方を考えるべき上司や経営者にプレゼントするのに良い本だと思います。

402330929X 「フェイスブック時代のオープン企業戦略」は、ソーシャルメディアによる企業の変化を描いた書籍である「グランズウェル」の共著者でもあるシャーリーン・リー氏が書いた書籍です。
 かなり以前に買って読んでいたのですが、書評抜き読書メモを公開していなかったので、公開させて頂きます。
 以前ご紹介した「エンパワード」も「グランズウェル」の続編にあたるのですが、エンパワードを書いたのは今もフォレスター・リサーチに在籍するジョシュ・バーノフ。
 こちらのオープン企業戦略を書いたのは、グランズウェルを書いてからフォレスター・リサーチを退職して独立。ALTIMETERというリサーチ会社を立ち上げたシャーリーン・リー氏。
 どちらも近いスタンスで書かれた本なのですが視点が異なるのが興味深いところです。
 「エンパワード」はどちらかというと「ソーシャルメディア担当者」に近い視点で書かれており、日本の企業担当者にとっても今すぐ参考になる視点が多い印象がありますが、こちらのオープン企業戦略で対象になっているのは、文字通り企業の戦略。
 英語の原題は「OPEN LEADERSHIP」となっていますが、要はこれからの自体はオープンを前提とした企業戦略に変えていかなければいけないという問題提起です。
 何と言っても米国は既にFacebook利用率が7割とか、アカウント保有率に至っては96%みたいな調査結果もありますから、もはやメール並みの利用率。
 当然、企業もそれにあわせて経営戦略や事業方針を変更する必要性に直面しているのは間違いないでしょう。
 ただ、そう言う意味ではこの本を日本の経営者の方々が今読んでしまうと、ちょっと現実との乖離を感じてしまうかもしれません。
 そう言う意味では個人的には、まず「グランズウェルエンパワード」を読んで、その先を見据えたい方にこの「オープン企業戦略」を読んで頂く、という順序が良いのかなと思ったりもしますが。
 上司や経営者に考え方を変えてほしいと悩んでいる方は、この本を年末の課題図書としてプレゼントしてみるのも面白いかもしれません。
 
 もちろん、米国におけるソーシャルメディア活用の最新事業を理解したい方には非常に参考になるポイントがたくさん入っている一冊ですので、是非今すぐ読むことをお勧めします。
 私の読書メモも膨大な量になってますが、ご参考まで。
【読書メモ】
■「さあオープンにしましょう」という勇ましいかけ声をよく耳にするが、現実的な成果を手にするためには、しっかりした戦略やリーダーシップに基づくアプローチが必要である。
■ソーシャルテクノロジーの導入に当たっては、企業はもはやコントロールできるのは自分ではないということをまず認めなければならない。
■コントロールを手放すよう私が勧めるのは、そうすれば結果的にはいくらかコントロールを取り戻すことができるからだ。
 相手の言葉に耳を傾け、そのパワーを尊重するのは、敵対的な行動に対抗できる立ち位置につくことなのである。
■オープン・リーダーシップの5つのルール
・顧客や社員が持つパワーを尊重する
・絶えず情報を共有して信頼関係を築く
・好奇心を持ち、謙虚になる
・オープンであることに責任を持たせる
・失敗を許す


■オープンネスを構成する10要素
・情報共有
 ・説明
 ・更新
 ・会話
 ・オープンマイク
 ・クラウドソーシング
 ・プラットフォーム
・意志決定
 ・中央集権型
 ・民主型
 ・コンセンサス醸成型
 ・分散型
■オープン戦略の4つの基本的な目的
・学ぶ
・対話する
・サポートする
・イノベーションを促す
■ソーシャルメディアのモニタリングの問題点
・大量のノイズが混ざりやすい
・小さなコミュニティから得られるアイデアやヒントは、全体を代表するものとは言えない。
・あなたの会社の市場調査部門は、この新しい調査方式に脅威を感じている。
■エンゲージメント・ピラミッド
・主催する
・制作する
・コメントを付ける
・共有する
・見る
■アップルは成功しているからクローズドにできるのだ、ということを忘れてはいけない。アップルには、才能あるエンジニアとデザイナー、カリスマ性のあるCEO、誰にでも愛されるブランドという3つの要素(アップル・ファクター)がそろっている。
■オープン戦略をたてるステップ
・オープン戦略の重点目標を見きわめる
・「学ぶ」ための環境を整える
・「学ぶ」以外の目的を明確にする
・必要なオープン度を見きわめる
・自社のオープン度をチェックする
■オープン戦略の4つの目的を追求した場合に得られる4つの効果
・摩擦をなくす
・小さな労力で大きな成果が上がる
・すぐに反応がある
・献身的な協力が得られる
■コムキャストのグラニー・アニー
 コムキャストに必要だったのは、「顧客」という抽象的な存在に姿形を与え、人間味を持たせることだった。
■フィエスタ・ムーブメント
 YouTube600万再生、Flickr74万表示、ツイッター370万imp
 8000人から資料請求、97%がフォード社を買ったことの無い人だった
 
■ソーシャルメディア・ガイドラインのチェックリスト
前文
・励ましの言葉(ソーシャルテクノロジーはなぜ重要か)
・ガイドラインの適用
 □会社に関連するトピックでの個人利用
 □公式利用
ガイドライン本文
・身分の開示
 □社員であることをいつ明らかにするか
 □会社に関連するトピックではつねに開示する
 □利益相反の恐れがあるときにも開示する
・責任
 □自分の発言には自分で責任を持つ。匿名の投稿はしない。
 □会社としての見解と個人の見解が別であることを明示する。
 □顧客、同僚、競合他社に敬意を表する。
 □自分の仕事の邪魔にならない範囲で利用する。
・秘密保持
 □会社との雇用契約に規定された秘密保持条項を守る。
 □顧客や同僚のプライバシーを守る。
 □秘密保持が忘れられがちなケースをハイライトする。
 □公開してよいもの、悪いものをあらかじめリストアップする。
・良識ある判断
 □良識ある判断に委ねられるケースを明らかにする。
 □迷ったら上司の判断を仰ぐ。
望ましい習慣
・全体のトーン
 □個性を出す、自分らしさを表現する
 □怒っているとき、あわてているときは投稿しない
・クオリティ
 □スペリングや文法に注意する
 □付加価値のあるコンテンツと発信する
・信頼関係
 □必ず返信する
 □専門分野について情報を発信する
 □情報源へのリンクを張る
 □過ちを認める
監視と介入
・介入するタイミングを明らかにする
・マネージャーがとるべき対処法を掲げる
・重大な違反に対する処罰を定める
参考情報
・広報、人事、法務部の連絡先
・研修プログラム
■ガイドラインの処罰に関する項目
「本ガイドラインに違反したデルの社員および役員は、解雇を含む処罰の対象となる。さらに、違反の程度やオンラインで開示した情報によっては、民法または刑法上の処罰の対象となることもある」(デルのガイドライン)
■「投稿管理は、次の原則に従って行います。すなわち、「よい評価はよい。悪い評価もよい。ですが、不快な評価はいけない」ということです。」(インテルのモデレーション基準)
■ゲットサティスファクションの企業顧客協定
・相手を思いやる
・対話を維持する
・堂々とふるまう
・忍耐心を持つ
・建設的な姿勢を保つ
■オープン戦略の実行プラン
・ソーシャルグラフィック・プロフィールを作成する
・ワークフローとステークホルダーを特定する
・最適な組織モデルを検討する
・実行担当者を指名する
・トレーニングとインセンティブ・システムを設計する
■オープン・リーダーのタイプ
・楽観的か悲観的か
・個人プレーを重んじるのか、チームプレーか
■四つのタイプ
・楽観的な現実主義者(楽観的・チーム):最も影響力の強いオープン・リーダー
・心配性の懐疑論者(悲観的・個人):組織の中で門番のような役割を果たす
・慎重な実験者(悲観的・チーム):他人の知恵や力を借りようとすることを厭わない
・一途な伝道者(楽観的・個人):楽観的な一匹狼タイプ
■「五年かかったよ」(ベストバイがコラボレーションを学ぶまで)
■オープン・リーダーシップの意識変革
・サンドボックス協約を決める
・楽観的なリーダーをパートナーにする
・長い付き合いのある人と話す
・小さなことから始める
■オープン・リーダーの育成
・資質を備えた人材を積極的に採用する
・オープン戦略が浸透しやすい環境を作る
・障害物を取り除く
・リスクていくを奨励する
■上手に失敗に対処することは、オープン・リーダーの重要な役割の一つである。どれほど周到に計画を立てても、失敗は避けられない。むしろリスクていくを奨励する環境を整え、恐れず失敗し、そして失敗から立ち直るスキルを身につける方が良い。
■グーグルのモットーは「どんどん失敗せよ、ただし賢く失敗せよ」である
■組織が失敗を受け入れ、そこから学ぶために
・失敗を認める
・信頼関係を築く
・個人攻撃をしない
・失敗から学ぶ
■(2006年の炎上後)ウォルマートは満を持して、2007年12月にチェックアウトブログをスタートさせる。
 度重なる失敗にもめげず、原因を究明するとともに新しい試みを手探りで続けた結果、ウォルマートはいくらかコツを会得したようである。
■失敗に強い体質を作る
・事後分析を励行する
・最悪のシナリオを想定する
・即応体制を整える
・失敗のショックを和らげる
■コネクト+デベロッププログラム(P&G)
 外部からアイデアを募る試みは、173年におよぶ同社の歴史で初めてのことである。
■(2005年の炎上後)2007年1月にCEOに復帰したマイケル・デルは、顧客とのダイレクトなエンゲージメントを戦略の柱に据える。とりわけマイケルが個人的に力を入れたのが、アイデアストームだった。
■「心配するな。失敗したら、そこで学べば良いんだ。そうして、またトライする」(マイケル・デル)

402330929X フェイスブック時代のオープン企業戦略
シャーリーン・リー 村井章子
朝日新聞出版 2011-05-06

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