RTCVol.10 『ウェブ進化論』 後録 | 近江商人 JINBLOGを読んで。
先日のウェブ進化論をテーマにしたRTCカンファレンスのまとめで、上原さんが「「不完全さ」が事後の議論を起こしやすくして、結果「群集の叡智」が集まりやすくなっているのだなぁ」とまとめていますが、個人的にもいろいろ共感するところがあります。
先日、「ウェブ進化論自身が、ネットとマスメディアの融合の成功事例?」というタイトルで、ウェブ進化論の成功自体がブログマーケティングの見本みたいな話をちょっと煽り気味に書きましたが。
じゃあ誰でも手法を真似すれば、同じように書籍を大ヒットさせることができるかというと、もちろんそういう話ではありません。
今回のウェブ進化論の大ヒットは、梅田さんが日本のブログ界のファシリテーター的な役割を担っていたからこそですし、個人的には「梅田望夫メソッド」とでも呼ぶべき、梅田さん独特の議題設定能力が大きいと思っていたりします。
そもそも、私がビジネスの時事的な話を綴るブログを始めたのは、CNETで連載されていた梅田さんに影響されたのが一つのきっかけです。(そんなわけで、CNET主催の梅田さんセミナーに参加したり、FPNで梅田さんとの座談会を企画してみたりと、まぁ追っかけに近いポジションだったりするわけですが。)
個人的に梅田さんが凄いと思うのは、自分のブログを通じた発信もさることながら、その発信したものが実に頻繁にブログ界で話題に、しかも「議論」になること。
読者が多いブログだから、当然と言えば当然なわけですが、梅田さんを中心に発生した議論は、キーワードが残るのが一つ特徴だと思います。
ここで、勝手に(本人にも無断で)、「梅田望夫メソッド」を定義してしまうとこんな感じ。
・ばーーーーっさりと、個人や企業を二つのグループに分ける。
・それぞれのグループにわかりやすいタイトルをつける。
・議論を皆に振る。
例えば
「PC世代」と「ネット世代」
「こちら側」と「あちら側」
「エスタブリッシュメントな層」と「若い人たち」とか。
こんな感じで、ばっさり切られると、大抵の人は自分がどっち側なのかを考え、自分がどっちなのかで一喜一憂します。自分のサイドがポジティブだと思えば喜び、自分のサイドがネガティブだと思えば不安を口にし、自分なりの考えがある人は梅田さんにトラックバックで議論を挑みます。
また、切られた線上や中間にいる人たちは「そんな二つで分類なんて単純に出来ない!」と怒る人も発生します。ある人は議題設定自体に問題提起をしたり、時には梅田さんがいかに分かっていないかというのを、とうとうと書いていたりするわけですが。
そういう光景を見ながら、梅田さんは、議論自体に勝とうとしているわけではなく、議論自体を楽しんでいるんだなーと思うときが良くあります。
私なんかは、普通どうしても、ブログに意見を書いてそれを他の人に否定されると、その否定自体が人格否定みたいな気がして、落ち込んだりしてしまうものですが。
梅田さんは、時に嬉々として反論に応えていたりするわけです。
まぁ、考えてみたら上の手法ってディベートの手法に似てますよね。
二つのサイドを決めて、自分がどちらかのサイドを取って議論をする。
良く考えたら、ブログで反論されること自体、今後の自分のための知恵の一つになっているわけで、まさにブログでの議論は、不特定多数の人を相手にディベートを行っているようなもの。
議題設定を行った梅田さんからすると、賛成も賞賛も反論も批判記事も、すべて議論を誘発することで生まれた「群集の叡智」なわけで、自分が提示した理論を議論を通じて更に強化されている感覚なのかもしれません。
ケースバイケースで話をしたら、そんな世代論とか二元論にすべてが当てはまらないのはある意味当たり前なんですが、梅田さんはそこをあえて、ばーーーっさりと二つに切ってしまうことで、議論をしやすくしているような感じすら受けます。
そういう意味で、あらためて「ウェブ進化論」を振り返ると、やっぱりこの本は上原さんが書いているように「「不完全さ」が事後の議論を起こしやすくして、結果「群集の叡智」が集まりやすくなっている」ようなブログ的な本なんですよね。
ついつい書籍という形になっていると、何かを教えてくれる「教科書」として読んで、何となく分かったような気分になって終わりにすることになってしまいそうですが、この本はそこで終わったら実にもったいない気がします。
組織単位でまとめ買いをする会社も増えているそうですが、せっかくそうやって組織全員で読むのであれば、その組織の中で議論をしたり、感想を交換したりして欲しいですし、是非自分のブログを始めてみるとか、ソーシャルブックマークサービスを使ってみて不特定多数無限大の世界とか群集の英知とかを体感してみるとか、そういう何かのきっかけにする本なのかなーと思います。
というわけで、とりあえず自分はウェブ進化論をきっかけに、もう少し他の人の批判にひるまずに議論を楽しめるようになるように、自分なりの結論をちゃんとブログで書いていくようにしたいと思う今日この頃です。
カテゴリー: ネットコミュニケーションの視点
ウェブ進化論自身が、ネットとマスメディアの融合の成功事例?
『ウェブ進化論』は何故キャズムを越えたのか? | 実践!Webマーケティング:Blog | ミツエーリンクスを読んで。
ウェブ進化論が凄い勢いで売れているようですね。
なにしろ、「発売から4週間で六刷。累計15万部突破」というんだから凄いです。
ビジネス書で、しかもネット関係の本でこれだけ短期間に売れるというのは、間違いなく初でしょうね。
冒頭に紹介したミツエーリンクスさんのブログで、ウェブ進化論の評判が伝播していく様子が分析されていますが、正直、自分がウェブ進化論の出版記念イベントにパネラーとして参加させてもらったのが遠い昔の出来事のように感じてしまうほどです。
昨日、RTCカンファレンスでウェブ進化論についての議論を聞いてきたこともあり、kwmrさんに書けばといわれたこともあり、もう裏話を暴露しても良い頃だと思うので、自分なりにウェブ進化論の歴史(?)を振り返ってみたいと思います。
私が梅田さんの出版記念イベントについて最初に聞いたのは、確か去年の12月です。
ただ、その後詳細の説明も何にもなかったので、すっかり忘れていて1月12日にいきなり梅田さんのブログで告知があり驚いたぐらいでした。
さらに驚いたのが1月30日に梅田さんのブログで発表された「第一部 これからのメディアについて」という議題設定。
えーー、そのテーマにパネラーが私で良いんですか?というのが正直な感想。
いくらFPNでメディアの真似事をやっているとはいえ、自分のメディアに関する知識なんて梅田さんやR30さんに教えてもらったことがほとんどなので、当日貢献できなさそうだと思っていたのが事実です。
おまけにブログとメディア論みたいなのは、いわゆるブログコミュニティにおいては1年前に激しく議論されたテーマ。梅田さんやR30さんとは、ある程度共通の結論みたいなものを共有している感じはあるので、今更感を感じてしまっていたのも正直なところです。
で、当日、始まる前にR30さんと「メディア論は早めに終わらせて別の議論しましょう」的な画策をしていたりもしたのですが、結局、梅田さんとそういう話をする暇はなく、ポッドキャスティング収録のために不規則発言を封じられたのもあり、メディア論の議論をある意味淡々と収録する形になります。
実は当日まで、梅田さん本人とやり取りは無かったので、ご本人の意思を確認する暇もなく当日に突入してしまったのですが、予想通り当日のメディア論の議論にはあまり貢献することもできず、ちょっと凹み気味で当日を終えたというのが本当のところでした。
これはあくまで個人的な印象ですが、会場に参加することができたブロガーの皆さんも、結構戸惑っていたように思います。
何しろ、せっかく濃いブロガーが20人以上集まっているのに、会場を巻き込んだブログ的な議論が行われるわけでもなく、収録を黙って見守る形になってしまったわけで。
皆さんいずれ劣らぬ論客ばかりですから、結構消化不良になっていた人も多かったようです。(確か会議1.0と比喩する人もあったと記憶してます)
まぁ、その分、その後の2次会では、ブログ的にいろんな議論が白熱していたわけで、皆さん満足して帰ったわけですが。
ただ、今となっては、このイベントの意図を自分が大きく勘違いしていたのが良く分かります。
私個人は、ブロガーを集めてパネルディスカッションをするということで、てっきりいつもブログ上でやっているような濃い議論を、濃いブロガーを巻き込んで行うイベントなのかと勘違いしていたわけですが。
このイベントはあくまで、メディアやブロガーの人たちに「ウェブ進化論」について書いてもらうためにあったわけです。
まぁ、出版記念イベントなんですから、当たり前の話。
今思えば、我ながら、ひどい勘違いをしたものです。
特に今回のイベントのメインのターゲットは、やはり既存マスメディアの人だったのだと思います。
ついつい私たちは梅田さんをCNETブログの頃から知っているので、超有名人だと勘違いしてしまいますが、一般的な基準から言えば梅田さんはそれほどマスメディアに頻繁に登場する人ではありません。
ウェブ進化論という書籍を出したところで、普通に行けばブログには取り上げられても、それほどマスメディアに取り上げられることは無かったはずです。
そもそもこの書籍「ウェブ進化論」のメインのターゲットは、ちくま書房のインタビューでも書かれているように「リアル世界の四十代~五十代の人たち」に「ネットの世界をきちんと伝えよう」ということ。
ブログでいくら話題になっても、そのままではリアル世界の四十代~五十代になんて伝わりません。
そのためには、なんといってもマスメディアに取り上げられることが必要なはずです。
そこで一つの象徴的な役割を果たすのが今回の出版記念イベント。
20名以上のブロガーに事前に書籍を配布し、「発売直後に一斉に」ブログで書いてもらうというバズの集中化を行った上に、IT系のニュースサイトにも記事を書いてもらい、書籍発売直後の話題づくりを行います。
そういう意味では、出版記念イベントのターゲットが既存メディアの記者の方と考えれば、第一部が「これからのメディアについて」というテーマ設定だったのは今考えれば自然です。
記者の方々にとっては、ネットと既存メディアがどのような位置づけになっていくのか、どのように融合していくのかというのは非常に興味深いテーマのはず。
多くの記者の方が、梅田さんの発言に注目していたはずで、もっとこの人の話を聞きたいと思ったはずです。
結果、書籍販売後1週間~2週間で、おおくのオンラインメディアに梅田さんのインタビュー記事が掲載されることになります。考えたら、書籍出版をきっかけにメディアにインタビューされるというのはそれほど普通のことではありません。書評コーナーに掲載されるならまだしも、梅田さん本人のインタビューが連発したわけですから。
これらの中には当然事前に仕込んでいたものもあるはずですが、出版イベント直後のブログでの盛り上がりが好影響を与えたものも多いように想像します。
ただでも、ブログを中心に話題になっている上に、オンラインメディアでも大量に紹介され、「ウェブ進化論」は見事なスタートダッシュを成功させます。
それがAmazonのランキング急上昇や、品切れ続出をひきおこし、それが更なる話題を誘っていくのは皆さんご存知の通り。
3月4日に 「王様のブランチ」のベストセラー紹介コーナーで第一位で紹介された時点で勝負アリ、ですよね。
この時点ではブログやオンラインでの盛り上がりは一段落しているわけですが、すでにウェブ進化論の話題はマスメディアまで突き抜けて行っているわけで、もう役割は終了です。
まずブロガーを中心に話題を盛り上げ、それをオンラインメディアにつなげ、最終的にマスメディアに届け、(その後ようやく新聞広告をうつ)、という形で見事にクチコミの連鎖が発生したわけで。
発売前に梅田さんが、ここまでの大ヒットを想定していたのかどうかは分かりませんが、事前に緻密に計画された、見事なブログマーケティングの成功事例ということができるのではないでしょうか。
もちろん、この成功はウェブ進化論という書籍自体がクチコミを発生させるクオリティだったからこそです。
そういった仕掛けが無くても単純に書店に並べただけでも大ヒットしたのかもしれませんし、ライブドア騒動と重なって、ネットやウェブの今後を冷静に考えたい人が増えたのかもしれないとか、他にこういった本が無かったので丁度ニーズにマッチしたとか、いろんなことは考えられますが。
ネットの世界のことをいかに「リアル世界の四十代~五十代の人たち」に伝えていくかということを、考え続けてきた梅田さんならではの成功だと言えると思います。
企業で社員向けにまとめ買いする事例も増えているようですが、今後ウェブ進化論のおかげで、多くの企業でウェブの力を理解してくれる管理職の人が増えてくれれば、ウェブを上手く活用したい我々のような世代の追い風にもなるわけで。
私たちブロガーも、そんな記念すべき成功事例の最初の盛り上がりに少しでも貢献できているんだとすると、何だかちょっと嬉しくなりますね。
相変わらずなんだかちょっとまとまらないエントリになりましたが、長くなってしまったのでとりあえずこの辺で・・・
(つづく、かもしれない)
Winny問題は、開発者逮捕から2年近くも経つのに・・・
安部官房長官が国民に異例の呼びかけ–「パソコンでWinnyを使わない」 – CNET Japanを読んで。
一国の官房長官が、記者会見でフリーソフトの使用禁止を国民に訴えるというのは実に異例の光景でしたね。
Winny問題というのは、ファイル交換ソフト自体の著作権を巡る問題に加え、トラフィックの問題や、情報漏えいウィルスの問題も絡んでしまっていますから、普通の人に理解するのは不可能なレベルになってしまっている気もします。
そんな中、官房長官がわざわざ記者会見で「Winnyを使わないでくれ」と宣言して、どれぐらいの効果があるのかは正直微妙です。
なんだかかえってWinnyの注目度を増してしまい、模倣ウィルスの増加や興味本位の利用による被害の拡大を招いてしまいそうな気がするのは私だけでしょうか。
(安部官房長官の発言にバックアップされる形で、早速ぷららはWinnyの完全規制を打ち出しており、Winnyのトラフィックに悩むISPにとっては助かる宣言になったようですし、Winny対策の便乗商売は数々生まれてきているようですが)
先週丁度「Winnyは悪くない、悪いのはウイルスであり、感染する人だ」という開発者の金子さんのコメントが記事になっていましたが、改めてWinnyを巡る騒動を振り返ってみると、Winnyの開発者である金子さんが逮捕されてもうすぐ2年になろうとしていることに驚きます。
開発者が逮捕されて2年になるのに、いまだにWinnyをめぐる問題は収束するどころか、むしろ情報漏えいウィルスに関しては日々悪化しているような印象すらあります。
先日の記事で、特に個人的にひっかかっているのは開発者の金子さんが「Winnyの改良を行わないことを警察側に誓約した」という点。
これが問題を悪化させているように思ってしまうのは私だけでしょうか?
Winny及び金子氏が、そもそも問われている問題は著作権法違反幇助の罪です。
手軽に音楽や映画のファイルをコピーできるために人気を博したWinnyですが、コンテンツ業界からすれば当然これは大問題で、そのソフトウェアが改良されることを望まないのは当然でしょう。
ただ、残念ながら金子氏の逮捕以降もWinny利用者はそれほど減っていないらしいという現実があります。
英語圏では、複数のファイル交換サービスが存在するため、どれかが閉鎖されるとすぐ次のサービスに人気が移るという遷移がおこっているようなのですが、なぜか日本ではメインで利用されているのはいまだに昔ながらのWinMXとWinnyがほとんどのようです。
そういう意味ではウィルス開発者からすると、ファイルを自動的にコピーするためウィルスを伝播させやすい性質を持っており、ある程度の利用者もいるため影響も大きいことが想像でき、しかも開発者による修正や改善が停止しているWinnyというのは格好の標的です。
結局、情報漏えいウィルスのAntinnyの問題というのは、Winny自体にセキュリティホールがあって、ウィルスが伝播しやすいという仕組みを突かれているわけですから、本質的にはソフトウェアの問題。
ソフトウェアに問題があるなら、それを修正すれば被害はある程度防げるはずなのに、修正版が出てこないから利用者は未だに問題のあるままのバージョンを利用し続け状況が悪化するという状態にあるようです。
なんで、警察は金子さんに修正プログラムを書かせないのでしょうか?
ただただしさんも「Winnyを改善させて損をする人がどこにいるのか」という記事のなかで、「問題を起こして業務停止命令下にある自動車メーカーに、リコール対策すらも禁じているかのようなものです」と書かれていますが、私もそう思います。
もし今回の問題がハードウェアだったら、警察も当然その機器の改善を開発者に指示したんじゃないでしょうか?
なんだかソフトウェアだから良く分からないからという理由で、そのままにされているような気がしてなりません。
まぁ、そもそもの著作権法違反の視点で考えれば、Winny利用者がウィルスで苦しむこと自体は、警察側やコンテンツ業界としては実は追い風と見ることもできます。
Winnyの利用者がウィルスを恐れて減ってくれれば、著作権違反も結果的に減るわけで、そういう意味でもWinnyを改善する理由などないわけです。
そういう意味では、「Winnyを使わないで」というお願いぐらいしかやることはないというのも分からないでもありませんが。
でも、そもそものWinny利用者が未だに存在するという事実自体を踏まえて根本的な問題を解決をしないと、情報漏えい事件発生→メディアが報道→認知度が上がってウィルスを作る人や、興味でWinnyを試す人が増える→また事件発生というスパイラルは終わらないような気がしてなりません。
経産省部長のブログ炎上で職務専念義務違反はひどくないですか?
asahi.com: 経産省部長ブログ「炎上」 PSE法巡り書き込み殺到 – 社会を読んで。
御手洗さんのブログ経由で知ったのですが、PSE法の関連で経済産業省の谷部長のブログが「炎上」して、閉鎖に追い込まれていたそうです。
御手洗さんもブログで「行政に携わる方と非常に近い対話の機会が増えることは、住民のニーズに近い行政サービスを実現する上で、非常に価値のあることでしょう」と書いていますが、国の省庁の生に近い意見を聞けるブログがあるなんて実に画期的なことだったと思います。
私個人はPSE法について無知なので、法律自体の是非は分かりませんし、谷部長がどういう人だったのかは良く分かりませんが、それにしても対話をしようと努力をしてくれる窓口があったのに、そういうブログが存在したのに、その窓口が炎上して閉鎖に追い込まれてしまうというのは実に悲しいことです。
こういうことがあればあるほど、「結局ネットとかブログなんか使って国民の意見を集めても意味ないよね」と官僚の人たちに思われてしまうわけで。
結局、国民の意見なんて聞く必要はないという話に帰結してしまいそうなのが個人的には非常に残念です。
特に個人的に引っ掛かったのが「ブログ更新が平日の勤務時間内だったため「公務中の更新は問題」と議論は思わぬ方向に飛び火した」という部分。
もし、これが電話による苦情を対応という話であれば、苦情郵便に対する返事を書いているという話しであれば、抗議者が庁舎に押しかけてきたのを対応という話であれば。
勤務時間内の対応に、こんな指摘が出るでしょうか?
PSE問題に関わる谷部長のブログ更新というのは、行為としては不特定多数の人たちに経産省の施策への理解を求める、まさに電話対応や対面対応と同じ説明行為だったはずなのに。
人々の非難の矢面にたった行為が褒めらるべきぐらいのところを、「国家公務員法の職務専念義務違反」なんて懲罰をもらうなんて悲しすぎますよね。
しょせん今の官庁におけるブログの位置づけなんてこんなもんなんだというのが良く分かる一文ですが。
今回、谷部長のブログを炎上させてしまった人々は、聞く耳をもってくれたかもしれない谷部長を攻撃して、その後ろにいる手を汚してない人たちに谷部長を後ろから刺させた上、象牙の塔に閉じこもる言い訳を与えてしまったかもしれないわけで。
何とも、いろんなことを考えさせられる出来事です。
ちなみに、御手洗さんも書いていますが、「炎上」という言葉が一人歩きすると、いかにもネットならではの特殊な出来事のように見えてしまうのを個人的には非常に懸念しています。
今回のPSE法問題にしても、結局ブログの「炎上」というのは、人々の間でPSE法に対する疑念や不満が渦を巻いているから、リアクションの出やすいブログやネットが「炎上」という形で盛り上がるわけで。
これまでは人々の声が見えにくかったから「炎上」という分かりやすい現象が出なかっただけだと思います。(それが本当にたまりにたまるとデモとかストライキのような実力行使になるんだと思いますが)
官僚の皆さんには、是非ネットのボヤで済んでるうちに、本質的な問題を踏まえた議論をしていただきたいと切に願います。
携帯電話業界という定義の終わりの始まり
[R30]: ソフトバンク×ボーダフォン関連まとめを読んで。
ソフトバンクのボーダフォン買収をめぐって、様々な議論が始まっています。
ソフトバンクが日本テレコムを買収したときから、一部の人の間ではそのうちボーダフォンもソフトバンクに買収されるんじゃないのという憶測が流れていましたから、まぁ想定の範囲内と言えば想定の範囲内なんですが、実際に決まるとやはりインパクトは相当大きいですね。
私自身も、昔「通信会社は最終的には3位までしか生き残れない?」なんて記事を書いたときにソフトバンクは「ボーダフォンなりウィルコムなりを買収して、移動通信もトップ3入りを目指すべき」とかって無責任に書いてたんですが、今回の買収決定には素直にびっくりです。
また、あらためて買収劇を巡るブロガーの皆さんの反応を読んで回ると、さらに考えさせられるものがあります。
ボーダフォン自体は、Jフォン時代の写メールは脚光を浴びたものの、最近はすっかり安売り携帯になりかけていたわけで、「そんな負け組を買収したところで何ができるのか」ということを言うことはできます。
ただ、ソフトバンクのこれまでの通信産業参入のステップを振り返ると、今回の買収がそれにとどまらないのは火を見るより明らかでしょう。
ヤフーBBでADSLに参入したときも、業界の度肝を抜く低価格で参入し、ISP業界を仰天させたのに始まり。
BBフォンでは利用者間無料や全国統一料金を当然のように打ち出して、利用者にとっての長距離電話事業者の存在意義を消してしまい。
日本テレコム買収後には、固定電話の基本料金という聖域部分にまで参入を表明して、既存通信事業者の度肝を抜きました。
今回のボーダフォン買収をきっかけに、ソフトバンクが携帯電話業界に置いても同様のアプローチに出ることはほぼ間違いないでしょう。
R30さんなんかは「SBが引き金を引く、携帯電話業界の「大殺界」」と表現していますが、そうなる可能性は十分あります。
通信会社の視点からすると、そんな誰も儲からない戦略なんてなんでわざわざとるんだという話ですが、やはりそうやって個別の事業単位で収支を考えてしまう時点で、規制産業に慣れてしまっているということなんでしょう。
思い返せば、ヤフーBBが始まったときにも、ソフトバンクの超低価格戦略に対して「すぐにガス欠するよ」とうそぶく通信事業者は少なくなかったのを記憶しています。
結局、ARPUをベースに事業を考えていると、通信事業自体での利幅を無駄になくしてしまう低価格戦略というのは、論理的に考えればどう見ても異常にしか見えないわけです。
ただ、多くのブログで書かれているように、一歩引いてみると、ソフトバンクの戦略は実にシンプルです。
通信事業自体で仮に利益が出なかったとしても、Yahoo!を中心としたポータルの広告やコンテンツで利益が出ればよいわけで。
消費者一人ひとりからもらうお金のARPUで考えているから、どうしても個別の事業の収支に目が行きがちですが、グループ全体の収益性で考えればありなわけです。
これって、まさにGoogleがAdsenseを中心とした広告費による収益を元に、周辺のサービスを無料で提供しまくっているのと同じ構図。
渡辺さんが書いているように「Yahoo! JAPANのGoogle化」というのが、しっくり来ます。
改めて考えると、これまでの携帯電話業界というのは激しい競争をしているようでいて、結局同じ考え方の同じビジネスモデルの既存3事業者(+ウィルコム)の戦いだったわけで、携帯向けコンテンツ産業なんてのもその定義の中で成り立っていた産業。
ソフトバンクという業界の異端児のボーダフォン買収によって、業界の壁が取り払われてしまった今、今後の携帯電話業界という定義があいまいになってくるのは間違いなさそうです。
おまけに、今後はFMCとかトリプルプレイとかソフトフォンとか、技術的には業界の壁が更に無くなっていくのが明らかなわけで。
現在の既存企業はどのようにこの変化を捉えるべきなのか。
あらためて、御手洗さんの「競争のフェーズは完全にシフトした」という話を思い出しながら、はたして通信企業とは何かネット企業とは何なのかというのを考えずにはいられません。
なぜソフトバンクはdigg型ではなくオーマイニュース型を選んだのか?
韓国「オーマイニュース」にソフトバンクが出資–3月には日本法人も設立 – CNET Japanを読んで。
ちょっと前の記事になりますが、韓国の参加型ニュースサイトとして有名な「Ohmynews(オーマイニュース)」にソフトバンクが出資して話題になりましたね。
3月に設立されるオーマイニュース・インターナショナルという日本法人にいきなり6億円以上出資するというのも驚きですが、本体に出資しつつ日本法人を設立するという手法は、インターネットブーム前のYahoo!への出資を彷彿とさせますから、いろんなことを想像してしまいます。
個人的にも、1年半前FPNニュースコミュニティを手探りで始めた頃にオーマイニュースの存在を知り、非常に影響を受けたのもあり、いろいろと調べた経緯があります。
なにしろ韓国でのオーマイニュースの盛り上がりは非常に大きなものがあり、いろんなところで取り上げられていましたし。
ただ、いろいろ調べた結果、日本ではオーマイニュースのようなものは投稿型のニュースサイトはブレイクしないのではないか、という結論に至ったのも事実です。
時事通信の湯川さんもブログにかかれていますが、オーマイニュースの成功は、その当時の韓国で変革を求める人々のエネルギーが大いに蓄積していて、保守的な既存メディアに変わる存在としてオーマイニュースがそのエネルギーのはけ口になったという政治的な背景をなくしては語れません。
日本では、なんだかんだ言って既存メディアにも様々な立場のメディアがありますし、2ちゃんねるのようなオーマイニュースとは違う形での消費者参加型メディアも存在しましたし。
最近は、ブログなりmixi日記のようなもので、個人個人が自分のサイトで書くという行為の方が広がっていますから、そういう意味でも勝負ありと言う印象があります。
(逆にオーマイニュースの人気が高い韓国では、ブログはそれほど人気がないんだとか。アバター型SNSのCyworldの影響も大きいのかもしれませんが)
ただ、ヤフーもグループに存在するソフトバンクがてこ入れするとなると、ちょっと話は変わってきますね。はたしてどういうビジネス展開になるのか興味津々です。
ちなみに、個人的に気になったのは、diggのようなコミュニティ型ニュースサイトが注目を集めている中で、あえてソフトバンクが旧式のモデルにも見える投稿型ニュースサイトに出資したという事実。
Web2.0の視点から考えれば、今クールなのは当然diggのようなコミュニティの集団によって編集がなされるニュースサイトの方でしょう。
特にベンチャー企業や個人にとっては、diggのような仕組みの方が数人のエンジニアで手軽に開発できる上、コンテンツは他のサイトやブログのものを無料で流用する形ですからリスクも低く簡単に始められます。
実際、diggは数人で始めたにもかかわらず1年であっという間にSlashdotに迫る人気サイトに成長しました。
日本でも、はてなブックマークのポータルが同じようなポジションにあるかもしれません。
ただ、この手のサービスはあくまでコンテンツのフィルターを行っているだけで、実際の記事コンテンツを作り出したり保有しているわけではありません。
もちろん、人気が出ればフィルター部分のページビューは稼げますから、diggやはてなブックマークのように、フィルター部分やコメント部分にGoogle Adsenseを貼り付けて広告収入を得るようなビジネスはできますが、肝心の記事コンテンツを流用したビジネスや、記事の広告や記事を読んだ後に発生する行為から収入を得ることは難しいわけです。
当然、それが良いとか悪いとかいう話ではありません。
ただ、この場合、既存メディアはdiggやはてなブックマークに編集部分は取られても、最終的な記事へのトラフィックは得られるというのが重要なポイントです。
今回のソフトバンクのオーマイニュースへの投資は、それとは逆に記事というコンテンツ自体を生み出す仕組みに投資したといえるわけで、そういう意味ではおおげさに言えば既存メディアとバッティングする存在に投資しているように見えてきてしまいます。
湯川さんのブログでは、今回のオーマイニュースへの投資は、ソフトバンクの「2010年の、世界中のインターネットニュース・インフラ「情報ハブ」の地位の確立」という目標への第一歩に過ぎないという見方も紹介されていたりして、そういえば、孫さんは以前日本のメディアを買収しようとして断念した歴史があったなぁーとかいろんなことを考えてしまったりします。
(ライブドアのPJニュースの後から満を持して本命登場という意味では、球団買収のときのライブドア落選→ソフトバンクのダイエー買収ともかぶったりしますが)
とりあえず湯川さんがソフトバンクに取材に行かれるようですから、インタビュー記事を楽しみに待ちたいです。