『グーグル効果』が市場に押し寄せる–IDC、2006年の予測を発表 – CNET Japanを読んで。
IDCは、昨今のGoogleの多様な事業への進出が引き金となり「Googleが向こう何年かの間に、より多くの市場を独占し始めるのではないかという恐怖心を抱いた企業」が、自らさらなる市場の破壊をもたらすのではないかという予測を立てているようです。
そう言われてみると、ここ最近、Googleの今後の展開についての憶測の記事を見ない日はないぐらいです。
自分自身も業界の片隅で生きているわけですから他人事では無いのですが、あらためてGoogleが次にどの市場を破壊していく可能性があるのか自分なりに考えてみたいと思います。
【1.広告出稿者に対するサービス】
まず、Googleの収益基盤を考えると、当然最も重要になってくるのは広告出稿者に提供するサービスでしょう。
メディア・パブによると米国ではYahooとの広告主獲得競争が激化しつつあるようですから、いかにお金を出してくれる広告主を囲い込めるかというのが最大の焦点のはずです。
■アクセス解析サービス市場(破壊度大?)
そういう意味では、まず顧客である広告主の利便性向上を考えるとアクセス解析サービスの無料提供は非常に自然、ということで、この市場は既にGoogle Analyticsの無料提供によって、影響は避けられない状態になっています。
当然、コンサル等の付加価値をつけたサービスは生き残るでしょうし、Google Analyticsによって市場全体の裾野が広がる可能性もありますが、現状構築されていたように見えた業界バランスの破壊が進むのは間違いないでしょう。
■アフィリエイトサービス市場(破壊度中?)
クリック保証だけだったAdsenseに対し、ページビュー保証やコンバージョン保証をうたって何とか差別化ができてきたアフィリエイトサービスですが、Googleがページビュー保証のサイトターゲット広告と、Google AdsenseとFirefoxの紹介プログラムを開始するに至り、雲行きが怪しくなっている気がします。
特にクリック保証広告は、クリック詐欺の問題なんかもありますので、コンバージョン保証型は今後の注目市場でしょう。後述のクリックツーコールなんかもこの一部といえます。
Googleが今の既存のアフィリエイトサービスレベルまで、紹介プログラムを広げるかどうかは良く見えませんが、もし広げた場合、広告出稿者から月額基本料数万円を取っている既存のアフィリエイトサービスは、対応を余儀なくされるように思います。
■フリーダイヤル市場(破壊度小?)
市場と呼ぶべきかどうかは微妙ですが、Googleのクリックツーコールは、いわゆる0120のフリーダイヤルサービスを気軽に利用できるサービスといえます。
0120等の通信会社が提供するフリーダイヤルは月額1000円程度の基本料金と顧客が電話した分の電話料が必要だったと思いますが、Googleのクリックツーコールであれば、かかってきた電話分の電話料は広告費に隠蔽される形になります。
まぁ、そうはいってもPC発の通話が一般の電話をいきなり全て置き換えるわけはないので、市場規模から見ると影響は小さいと思いますが。
■地域広告市場(破壊度小?)
Googleローカルのような地域別広告手段が確立されれば、これまで地元にチラシをばらまいたり、看板広告等をうっていた人たち、もしくはそれすらできなかった人たちにとっては良い手段になる可能性があります。
まぁ、現在の検索広告と同じで既存の市場を壊すというよりは、新たにロングテール的な市場を作るという形になるとは思います。
■決裁サービス市場(破壊度中?)
Google Wallet(Google Purchase ?)的なものの噂は絶えませんが、もしGoogleが本当に決裁サービスを用意すれば、当然広告主からの支払いと広告媒体への支払いはそれで済んでしまう可能性があります。
更にはGoogleの広告やGoogle Base経由で見つけた商品をそのままGoogle Walletで購入させたり、はたまたAdsenseで稼いだ小銭をそのまま他のサービスに払ったり、利用者間の投げ銭的な小額決裁の手段となったりといった可能性が出てくるるわけで、影響は非常に大きいような気がします。
そうはいっても、日本ではPaypalも流行ってないですし、何か別の壁があるのかもしれませんが。
■クラシファイド広告(破壊度中?)
詳細は不明ですが、Google Automatのような噂もありますし、GoogleがGoogle BaseやGoogle Purchaseを使って、クレイグズリストやeBayのKijijiがやっているようなクラシファイド広告サービスを提供する可能性があるようです。
出稿自体は基本的に無料のクラシファイド広告においては、決裁サービスが重要な収益源になるようですから、ありえないシナリオではないと感じます。
■広告代理店市場(破壊度小?)
実際にAdwordsのようなサービスを使っていて思いますが、Googleへの広告出稿は広告出稿者が直接できてしまいます。
Googleが雑誌広告枠を再販なんてニュースもありますので、こうなるとこれまで媒体を抑えていることに価値があった広告代理店は、ある程度中抜きされる可能性が出てきそうです。
まぁとはいえ、全ての広告出稿者が直接Googleとやりとりするわけではないですし、これもロングテール的な市場が出現するという話だと思いますが。
【2.広告媒体としてのサービス】
上記のような広告出稿者の利便性向上の、次に重要になってくるのは、その広告を処理する媒体自体を増やすという点だと思われます。
■メールソフト市場(破壊度小?)
ここは、実質HotmailやYahoomailなど無料メールサービスは乱立していますから、市場を破壊というレベルではありませんが、Googleとしても広告を表示できる媒体としてGmailには当然力を入れてくるはずです。
■ソフトフォン市場(破壊度中?)
既にスカイプが世界中通話無料を実現してしまっているので、今更感はありますが、Googleであればスカイプが有料で提供している留守番電話等のオプション等も、無料で提供できる可能性が大です。
GoogleTalkについては、今のところGmailの魅力向上のためのツールという位置づけが強いような印象ですので、それほど市場へのインパクトはないように見受けられますが、Talkという単語を入れてきたからには何かやってきそうな気がします。
■店舗検索サービス市場(破壊度中?)
Google Localでオーナーの直接登録が可能になりましたが、このようなものが充実してくると、ぐるなびのような登録制の店舗検索サービスって中長期的にどうなってしまうんでしょうか?というのが気になったりします。
もちろん、あくまで現在ぐるなびのようなサービスで検索している人が、Googleで検索するようになったらの話ですが。
■オンラインショッピングサービス市場(破壊度中?)
上と同じような話ですが、FroogleやGoogle Baseのようなものが充実してくると、現在の楽天のような出展者が出展料を払っているモールとか、カカクコムのような価格比較サイトって結構影響を受けるような気がします。
まぁ、これもあくまで検索する側の利用者がGoogleに移動したらという制限つきですが。
■オークションサービス市場(破壊度中?)
Google Baseの本質をいまいち理解できていないのですが、もしGoogle Baseを活用することで手軽にデータをやり取りできるようになれば、確かに現在のeBayのようなオークションサービスであったり、中古車販売サービス、クレイグズリストのようなクラシファイド広告と競合するものになりそうな感じです。求人広告サービスなんかもターゲットでしょうか。
■ポータル市場(破壊度小?)
Googleパーソナライズみたいなものが充実してくると、たしかにスタートページを現在のポータルから変更する人というのは増えてくるかもしれません。
ただ、Yahooのような典型的なポータルサイトも同様のアプローチは取ってきていますし、個人的には、一般利用者がどこまで自分でポータルを作りたいと思うかという疑問があるので、破壊度は低そうな気がしますが・・・
■ISP・通信事業市場(破壊度中?)
Googleは一部の地域で無線インターネット接続を無料で提供するなんていう試みを始めていたりします。
ライブドアは東京で月額500円のWifiサービスを始めましたが、そういう意味ではGoogleのWifi利用者が平均月額500円利益を落とすほど広告をクリックしてくれるのであれば、Googleはライブドアと同じ事を無料でできてしまうわけで。
まぁ、Googleが全面的にインフラ事業者になるとは想像しづらいですが、都市部においてはありえないシナリオではないような気も・・・
■図書館市場(破壊度中?)
図書館を市場と読んでいいのかは良く分かりませんが。
Google Printのようなもので、著作権の切れた蔵書等が手軽に閲覧できるようになれば、公立図書館のようなものの存在意義は薄れてくるかもしれません。
とはいえ、Google Printは著作権がらみの訴訟で苦労しているようですが。
■アンチウィルスソフト市場(破壊度大?)
アンチウィルス市場は、利用者がインターネット上でお金を払っている数少ない有料サービス市場です。Gmailで添付ファイルのウィルススキャンが実装されましたが、GoogleがGoogleデスクトップのインストールベースを本気で増やしたくなったら、アンチウィルスソフトをGoogleデスクトップに無料でセットでつけて配ってしまうというのはありのような気が・・・妄想ですかね。
■その他有料ソフトウェア市場(破壊度中?)
既に、画像管理ソフトPicasaや地図ソフトのKeyholeにおいては、Googleが買収後有料ソフトを一部無料で配付したという実績がありますが、今後Googleがそれ以外のどのソフトに同様のアプローチを取るのかは未知数です。
Picasaの例や、今後のビデオ検索なんかを考えると、音楽や動画管理系のソフトとかはありそうな感じもしますが・・・どうでしょうか。
Microsoft Officeなんかが良くターゲットとして言われますが、広告との相性なんかを考えると優先度としては微妙な感じもします。まぁ、Microsoftの収益源叩きを目的にやる可能性はありそうな気も。
個人的にはGoogle Purchaseにオプションで、Microsoft Moneyのような資産管理サービスを無料で付ける方がありそうな気がしますが。
そもそもは、もう一つ3としてGoogleがエンタープライズ市場に与える影響についての考察をしたくて始めた気もするんですが、疲れたので一旦ここで止めてみます。
というか、Googleの「世界中の情報をとりまとめ、どこでもだれでも利用できるようにする」というビジョンを考えると、とりあえずはGoogleの人たちにとってはエンタープライズ向け市場よりもインターネット自体の方がよっぽどエキサイティングなんじゃなかろうかと思ったり。
どうなんでしょうね・・・
だらだらと書いてみましたが、結局のところ、Googleはこれまで細分化されていたインターネット関連事業を、全てインターネットメディア事業とでも言うべきシンプルなビジネス構造にしていく気がします。
広告費を払ってでもモノを売りたい人と、買う可能性がある人。
この二者のマッチングをしてあげて、初めて金銭的な価値があるわけで。
収入はそのマッチングから発生する広告費を中心とし、マッチングを発生させるための検索サービスや、媒体、関連サービスを全て無料で提供するというGoogleのビジネスモデルは、改めて考えてみると、非常にシンプルで合理的な話かもしれません。
(とはいえ、せっかく積み上げた市場を破壊される側にとっては、たまったもんじゃありませんが)
以上、だらだらと書いてみましたが、ちょっとメンテしてみたいと思ってますので、是非「ここが違うだろ」とか「これが抜けてる」というのがあればご指摘頂けると幸いです。