イーベイによるスカイプ買収詳報–動機に疑問の声 – CNET Japanを読んで。
先週末から取り沙汰されていたイーベイのスカイプ買収ですが、26億ドル+成功報酬という驚きの金額で決着したようですね。
イーベイは日本ではほとんど存在感が皆無に近い会社ですから、スカイプファンを中心に残念がる声が多いようですが、個人的にはスカイプにとっては非常に良いディールだったと感じてます。
たしかに、ここまでのスカイプの急成長はすべての人の予想を上回るすさまじいものでした。なにしろたった2年で5000万人の登録者を集めてしまったわけで、その勢いは今も衰えていないといいます。
ただ、これからは、明らかに違う次元の競争が始まります。
なにしろ音声通話というサービスが、インターネットにおいても十分魅力的だということをスカイプが全世界に知らしめたわけで、それをきっかけにMicrosoft、Google、Yahoo!という御三家が動き始めているわけです。
そういう意味で、渡辺さんにブログに書いてもらったように、先日のSkype Conference 2005では、スカイプは「会社としてちょうど分岐点なのではないか」と発言しました。
まぁ、個人的には、スカイプのベストな選択肢は、Microsoft、Google、Yahoo!のいずれかに買収されることだと思っていたわけですが。
ただ、Yahoo!のスカイプ買収話は金額面(10億ドル以下?)で折り合わなかったようですし、噂ではGoogleとも上手くいかなかった模様(まぁ、梅田さんの考察によるとGoogleはそもそもスカイプの買収には興味が無いだろうという説もあるようですが)。
併行して、それぞれの企業がスカイプの対抗策にあたる打ち手を打ってくる中、実は、スカイプを高値で買収してくれる会社はもうほとんど残っていなかったというのが正しい評価かもしれません。
もちろん、スカイプ単独でしばらく頑張るという選択肢もあるにはありますが、その場合は資金力が問題となります。
CNETの記事によるとスカイプの売上高はまだ今のところは6000万ドルで、「まだ黒字転換を果たしていない」状態。
もちろん、P2P技術を最大限活用したコストのかからないネットワークを武器に、売上高が無い状態でもサービス拡大はある程度できるわけですが、最近はサーバーで提供されている部分のボトルネックが明らかになりつつありったのも事実です。
例えば、今後スカイプの収益源を、他社が逆に無料で提供してきたらどうなるでしょうか?
現在、スカイプはボイスメールを利用者に有料で提供していますが、例えばGoogleならそもそも1GBのストレージを無料提供しているわけですし、Gmailと同様おそらくボイスメールも無料で提供することが可能です。
つまり、既存の電話産業のコスト構造に対しては非常に強かったとしても、自分と同じ手法で来る相手、しかも資金力も技術力もあり、広告やOSのような他の手法で売上を上げれば良い会社との競争に強いかどうかは別問題なわけです。
そういう意味では、スカイプにとってはイーベイは悪くない選択肢、というよりもひょっとしたら最後に近い選択肢だったかもしれません。
Alexaの Top English Language Sites を見ても分かるように、イーベイは、Yahoo!、MSN、Googleについで4位(間にMicrosoftのPassport.netが入りますが)と、ネット上のトラフィックで見ても第四勢力にあたりますし、資金力も十分。
実際の効果は別にしても、オークションやPayPalとの連携など机上のストーリーも描けます。
もちろん、だからといってイーベイにとってスカイプが26億ドル~というのが、お得な買い物だったかどうかは別問題。
投資家向けプレゼンテーションにあるような、オークションとの連動なんてのは、別にSkypeAPIを使えばどの事業者でも可能ですから、本質ではないでしょうし、スカイプの5000万登録のうち同時起動数が320万程度であることを考えると、ユーザーベースも割り引いてみた方が良いはずで、投資家向けの建前という印象があります。
結局、イーベイも「ただのオークション屋」のままでいたら、将来どうなってしまうんだろうという恐怖感から動いたのでは?と感じてしまうのは私だけでしょうか。
個人的には、インターネット上の戦いというのは、既に利用者の「アカウント」をどれだけ抑えられるかという、一部のプレイヤーによる頂上決戦に入ってしまっているような感じを受けていますが、今回のイーベイのスカイプ買収は、イーベイもその戦いに参加するという宣言と受け止めた方が正しい気がします。
はたしてその頂上決戦において、スカイプがイーベイにとっての「聖なる剣」となるのか、高いなまくら刀だったと言われるようになるかは、数年後に結論が出るというところでしょうか。
ちなみに、CNETの記事によると一部のブロガーの間では「Skypeが脅威とはならないことが分かったのだから、通信企業各社は安堵の溜息をついているかも知れない。」なんて笑い話もあるようですが、もしそう考えているなら大きな間違いですよね。
御手洗さんがブログに書いているように、通信やネット企業における「競争のフェーズは完全にシフトした」というのが事実であって、この流れはもう巻き戻らないでしょう。
超低コスト体質で勝ち組であったはずのスカイプですら、単独での音声通話のサービス提供をあきらめた。と、受け止めた方がいいように思います。
それにしても2年で26億ドルは凄いですよね・・・