マスコミは、もはや政治を語れない (佐々木俊尚)

406295057X 「マスコミは、もはや政治を語れない」は、「グーグル – Google 既存のビジネスを破壊する」や「フラット革命」で有名な佐々木俊尚さんの書籍です。
 献本を頂いていたのですが、読書メモを書けてなかったので、書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
 この本では、元新聞記者だった佐々木俊尚さんならではの視点で、最近の政治とマスコミ及びネット論壇の関係性を考察されています。
 最近の日本の政治関連の話題や騒動の考察も、両方の視点からされていますので、マスコミとネットの役割分担や、メディアとしての可能性について興味がある方には参考になる点が多々ある本だと思います。
【読書メモ】
■日本人は同調しやすいのか?
 小選挙区では民主党が47.4%に対して、自民党が38.7%。わずか8.7ポイントの差しかない。これが要するに小選挙区制のマジックということなのだが、多くのマスコミ人は「日本人の大半が民主党に同調してしまった!」と短絡的に結論づけてしまったのである。
■私の考えでは、ジャーナリズムにとって権力監視は必要かつきわめて重要な要素であることに異論はない。でもジャーナリズムは権力監視だけをやっていればいいってものでもない。
■「日本の官僚組織は、首相官邸から省庁にいたるまで、記者クラブという組織に独占的に取材をさせる「特権」を与えてきた。そうすることで、役人の思惑に即した発表を横並びで一斉に国内外へ流布することができ、コントロールもしやすい。会見以外の個別の「リーク」を利用すれば、意に反する報道を抑えることもできる」(日経ビジネスオンライン 井上理)
■ネットの世界で盛り上がった話題やできごとは、新聞やテレビに取り上げられ、マスメディアに翻訳されて国民に提供されることによって、初めて世間的に認知された話題となる。
■韓国では、ほぼすべての国民がネットに接続し、主な情報収集先をウェブ媒体に依拠しているから、ネットの話題はそのまま国民の話題となる。(中略)しかしそれは同時に、ひどい中傷や荒らしが簡単に流布してしまうという衆愚世界も生み出してしまったということだ。


■フェースブックは大家族性を復活させている
 アメリカではフェースブックがあまりにも普及しているので、自分の周囲の知人や友人の大半が加入していたりする。(中略)いままでだったらせいぜい年に一度か二度ぐらいしか会う機会のなかった祖父母や親戚とフェースブック上でつながり、短いコメントのやりとりなどをするようになっている。
■地元の声とは、いったい誰を指しているのだろうか?
(八ッ場ダムの報道でテレビのワイドショーにひんぱんに出演していた「地元の住民」と名乗る中年女性は)、ダム推進派に属する町議会議員だったのだ。
■「ここ数年、2ちゃんねるはおかしい。
 出入する人間の数が増えて、客層もずっと幅広くなったはずなのに、話題は、むしろ偏ってきている。簡単に言えば、2ちゃんねるは、ある時期から、プロパガンダの場所になったということだ」(日経ビジネスオンライン 小田嶋隆)
■毎日新聞WaiWai事件
 電凸と呼ばれる抗議行動が盛り上がり、毎日新聞のスポンサーに対して電話やメールなどにによる苦情、問い合わせなどが盛んに行われた。抗議電話の対象は200社以上に上り、かなり大規模な抗議行動だった。(中略)さらに街頭デモも計画され、東京・竹橋の毎日新聞社前で街宣が行われた。
■「国民が政策にじかに介入できるようにちゃんとシステムを作って、政策審議過程を全部透明化し、パブリックコメントのシステムをもっと洗練された形にすることによって、全然違う政策のつくり方ができるかもしれない。たとえば基礎自治体のいくつかなんて、SNSで運営すれば良いと思う。ミクシィとかで」(朝まで生テレビ 東浩紀)
■「ウェブでアメリカやグーグルが強いのは、アメリカ的民主主義を情報社会に読み替え、常に理念に基づいて動いているからで、伝統もテンションもない日本では、道具立てや原理から社会モデルから考える必要があるだろう」(ウェブ学会シンポジウム 東浩紀)
■結社複数所属の社会
 会社に隷従したかつての時代においては、会社の個別意思にしたがって自分の意思を曲げなければならず、それは一般意志へとはつながっていなかった。
 だがこのような結社複数所属の社会であれば、会社や飲み屋や趣味のサークルのそれぞれの個別意思は、けっしてひとりの人間の個別意思を侵蝕しない。
■小沢四億円報道の記事には、コンテキストは完全に欠如している
 彼らが「司法クラブ」というインナーサークルの中だけに閉塞していて、お互いに理解し合える小さな共通言語の世界の中だけで記事を書いているからだ。他社と捜査幹部に読まれることだけを目的とした記事だから、コンテキストなんか必要ないのである。
■これまで情報はマスコミと官僚、自民党のトライアングルが握り、そこで発信された劣化された「世論」のようなものをわれわれ日本人は押しつけられてきた。だが政権交代をきっかけにしてこのトライアングルはぐらぐらと揺れ動き、いまやその振動は最大限にまで高まってきて、古い巨塔は崩れ落ちようとしている。
■「ジャーナリズムは社会の要請があれば、必ず生き残る。人々が違う意見を述べ合って、違う事実が出てくる。そういう状況がつねに保たれるということが民主主義にとって必要で、それは今後も保たれると思います」(立花隆)

406295057X マスコミは、もはや政治を語れない 徹底検証:「民主党政権」で勃興する「ネット論壇」 (現代プレミアブック)
講談社 2010-02-26

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