ウェブはグループで進化する(ポール・アダムス)を読むと、インフルエンサーに対する過度な期待が神話になろうとしていることが見えてきます。

4822249115 「ウェブはグループで進化する」は、Google+やフェイスブックの開発に携わっている開発者ポール・アダムスがウェブの変化の本質について考察している書籍です。
 献本を頂いていたので、遅ればせながら書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
 この本の原題は「Grouped」。
 ウェブの世界がコンテンツ中心から人中心に変わることにより、小規模なグループにおける会話の流れに注目することが非常に重要である、というのがこの本のテーマです。
 
 従来のマーケティングの世界においては、芸能人や著名人など、一握りの超有名人としての「インフルエンサー」を通じてメッセージを発信することが効率が良いとされている印象がありますが、この本において著者は人のコミュニケーションのほとんどは親しい数人との間で行われており、そういった小規模なグループに注目する方が重要であると言う問題提起を行っています。
 ソーシャルメディアの世界においても、ウェブサイトからブログ、SNSと参加の敷居が下がるに従い、明らかに影響力は分散していく傾向にありますし、いわゆる普通の人が友人や知人に対して影響を与える機会も増えているように感じます。
 ウェブの本質的な未来が気になる人はもちろん、マーケティングに携わっている人にも参考になる点が多々ある本だと思います。
 
 「[徳力]パーミッション・マーケティング」や「インバウンド・マーケティング」をあわせて読むのもお勧めです。
【読書メモ】
■ウェブが人を中心にした構造へと変化することは、もはや止めることのできない流れと言えるだろう。
 それは小さな軌道修正というレベルの話ではない。いまのウェブは根本から作り替えられようとしているのだ。
■従来のゲーム業界で一般的だった評価指標に照らしてみると、ジンガのゲームはあらゆる面で劣っていると言えるだろう。ただし他社のゲームにはない特徴が一つだけある。
 それはプレーヤーと、プレーヤーの人間関係を中心にゲームが構築されているという点だ。
■携帯電話のアドレス帳に何百という連絡先が登録されていたとしても、その中のたった4人を相手にした通話が、通話全体の80%を占めているのである。


■ソーシャルウェブの登場と言っても、単にオンラインの世界がオフラインの世界に追いつこうとしているだけにすぎない。
■「インフルエンサー」の発想を離れ、仲の良い友人たちが形成する小規模なグループに注目し、マーケティング活動を行う時代が始まろうとしている。
■こうした変化を促しているのは3つの推進力である。
・オンラインの世界がオフラインの世界に追いついてきている
・人々がネットワークを築いている事実を企業が理解し始めた
・人類史上初めて、人間関係を正確に把握して分析することが可能になった
■生活を楽にする、社会的な絆を築く、他人を助けるといった目的での会話が存在する一方で、実は多くの会話が「自分の評判をコントロールする」という目的で行われている。
■会話の大部分は個人的な体験、もしくは「誰が誰と何をしているか」といった噂話で占められていることが明らかになっている。批判や悪い噂話といったものは、全体のたった5%に過ぎない。私たちは他人から好意的に評価されていたいと願うものであり、そのため圧倒的に多くの会話が肯定的な内容になるのだ。
■オフラインの世界では、気まずい沈黙を避けたいという意識から会話が生まれることがある。しかしオンラインではそのような「会話の隙間」を埋める必要はなく、相手が何を面白があるだろうかという点について、より慎重に考えることができるのだ。
■ブランドに関する会話についても、そのおよそ半分が、家族など身近な人々との間で交わされている。またブランドに関する会話のうち、71%が対面で、17%が電話を通じて、9%がオンライン上で行われる。
■「他人について話して下さい」というお願いをオンライン上に投稿すると、高いエンゲージメント率を達成する場合が多い。
■人がコミュニケーションをとる相手は7人から15人程度の決まった人々であり、中でもつながりの強い5人との間でほとんどの会話が発生している
 さらに私たちが行うコミュニケーションの80%は、5人から10に程度の人々の間で発生しているとの研究もある。
■ソーシャルネットワークの構造
・5人:その人物の最も親しい人々が集まったグループ
・12~15人:共感グループ。
・50人:定期的に会う機会があるような人々
・150人:安定した人間関係を築く限度
■人は平均で4~6のグループに属しており、それぞれのメンバーは10人に満たないことが多い(メンバー数の平均は4人である)
■人間関係を築く傾向
・最小限型:遊び友達と知り合いしか持とうとしない。家族とも親しくはなく、心理面での問題は自分自身で解決しようとする
・集中型:他人と濃密な関係を築いているが、その相手となるのは主に親友と相談相手。
・選択型:濃密な関係の相手と、気軽な関係の相手の両方を持っている。
・広範囲型:より広い範囲から対象が選ばれている。彼らには親友がひとりかふたりしかいないが、一方で遊び友達の数を上回るほどの多くの相談相手や癒やし手、あるいは仲間が存在している。
■ハブには2種類ある
・イノベーター・ハブ:つながりを数多く持つだけでなく、心理的ハードルが低い人々
・フォロワー・ハブ:つながりの数は多いものの、心理的ハードルが高い人々
 
■新しい発想が普及する際の起点となるのはイノベーター・ハブなのだが、それが広く一般的に受けいれられるようになるには、フォロワー・ハブの存在が欠かせない。
■従来の「ファネル理論」は、人は合理的な思考回路を持つ存在であるという前提に立っていたが、実際には人は合理的な思考ではなく、感情に基づいて判断を行うことが分かってきた。
■マーケティング担当者は無意識脳の役割に目を向ける必要がある。
 意思機能が働き始めるときには、無意識脳はすでに何千という要素の分析を終えているのだ。
■人々に行動の変化を促す際に用いられる主な手段
・人々の周囲にある環境を変える
・新しい行動に付随して発生するコストに対して、もたらされるメリットの方を高める。
・ゴールとされる行動を、すでに他人が行っているという状況が見えるようにし、さらに彼らがその行動からメリットを得ていることも見えるようにする。
■妨害型マーケティングには二つの問題がある
・一般の人々にとって、妨害型マーケティングは嫌な経験でしかない
・人が持つことのできる関心には限界がある
■許可型マーケティング(パーミッションマーケティング)は、一般の人々が企業に対して「自分にメッセージを送っても良い」という許可を与えるところから始まる。
■オンライン上では批判的なコメント1件に対して、好意的なコメントが8件存在する。
 オンラインの世界では、人々は企業に対して圧倒的に好意的になるのである。

4822249115 ウェブはグループで進化する ソーシャルウェブ時代の情報伝達の鍵を握るのは「親しい仲間」
ポール・アダムス 小林啓倫
日経BP社 2012-07-26

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