「貧困のない世界を創る ソーシャルビジネスと新しい資本主義」は、マイクロクレジットの創始者とも言えるムハマド・ユヌスが書かれた書籍です。
かなり前に買って読んでいたのですが、遅ればせながら書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
ムハマド・ユヌスについては、2010年頃に「グラミンフォンという奇跡」や「チェンジメーカー」を読んだ頃から気になっていたものの、何となく他の本の後回しにしてしまっていたのですが、この本を読んだ今では、いわゆるソーシャルメディアの「ソーシャル」ではなく、もともとの意味である社会起業としての「ソーシャルビジネス」に興味がある方は、まず彼について知るべきだと明確に言えます。
グラミン銀行は世界でも有数のソーシャルビジネスの成功事例であり、単なるボランティア的な活動の枠を遙かに超えて、国家や国民のあり方自体に影響を与えている仕組みだということができます。
この書籍では、ソーシャルビジネスという観点から、従来の株主や投資家に金銭的利益を還元する企業の次の形として、社会的な利益を追求する企業や、貧しい人々によって所有されている企業の形の可能性、そしてダノンとグラミンが実際に設立したグラミン・ダノンという「毎日必要な栄養を貧しい人々にもたらすユニークな近接ビジネスモデルによって、貧困を減少させる」というビジョンを持った企業の実績などが紹介されています。
日本では一般的に、NPOやボランティアのできることというのは国や企業ではできないニッチなエリアを無償奉仕で対応するというイメージがまだまだ強い気がしますが、この本を読むと実はソーシャルビジネスというものは、営利追求と並列して存在することでより強いパワーを持つことが出来る新しい企業形態の一つであると考えることが出来るように思えてきます。
そもそも戦後に発展した日本企業には、松下幸之助の水道哲学のように、社会や地域への貢献と企業の成長がセットになっていたケースが多々あるはずで、実はソーシャルビジネスという発想は、日本企業に向いているような気がしてきます。
ソーシャルビジネスやNPOに興味が無い日本のビジネスマンにゃ経営者にこそ読んで欲しい一冊だと思います。
「マイクロソフトでは出会えなかった天職」や「マーケティング3.0」をあわせて読むのもお勧めです。
【読書メモ】
■ソーシャルビジネス
社会的な目標を達成するために考えられた企業
会社が自己持続できる価格で製品を販売する
■政府はものを作ることは上手いことが多いのだが、それがもはや必要なくなったり、あるいは負担にすらなってきたときに、作るのを止めるのはあまり上手くない。
■グラミンと世界銀行、この二つの組織には報奨金の制度にも大きな違いがある。
グラミン銀行には、五つ星の評価と報奨金のシステムがある。
・担当する全ての借り手について100%の返済実績を維持
・仕事で利益
・未返済のローンより多い額の預金を運用
・担当する借り手のすべての子供が確実に学校に入る
・担当するすべての借り手が貧困から脱却
世界銀行では、職員の成功は彼の仕事が与えた影響ではなく、首尾良く取り決めたローンの額に関係づけられる
■ソーシャルビジネスの投資と慈善事業の寄付の違い
・ソーシャルビジネスは自己持続型
・ソーシャルビジネスの投資家は自分の資金を取り戻せる
■二種類のソーシャルビジネス
・所有者に対する最大限の利益を追求するよりはむしろ社会的な利益を追求する企業
・貧しい人々や恵まれない人々によって所有されている、最大限の利益を追求するビジネス
■現在のビジネス環境は、ほぼ利益の最大化だけに焦点を合わせている。
現在のあらゆるビジネスツールは、企業が利益を最大にしているかどうか判断することに関連している。
■グラミン銀行で、私たちは経済的な差別に挑戦した。
私たちはあえて銀行のクレジットを最も貧しい人々に与えた。
■多くは法的にはNPOの運営形態を取っているが、私たちは徐々にそれらを企業として運営する方向に導いてきた。典型的な非営利の企業として運営するのではなく、ビジネスの原則を採用したのだ。
■人口増加率の下落が進んだのは主に医療の改善が進んだことに拠るところが大きい。
より多くの子供が生き残れるようになったことで、両親は家族計画に強い自信を持てるようになるのだ。
■グラミン・ダノンの使命
「毎日必要な栄養を貧しい人々にもたらすユニークな近接ビジネスモデルによって、貧困を減少させる」
■人間の根深い特性の一つは、他の人々のために良い行いをしたいという願望だ。
ソーシャルビジネスはこの人間の渇望を満たす。だから人々は惹きつけられるのだ。
■ダノン・コミュニティーズ・ファンド
ダノンの株主は、ダノンから現金を与えられる代わりにファンドを所有できる「社会的配当」のオプションを提供される
■今日、新たなITは、真の民主主義を支持して、強力なツールを提供する
情報は力である。だから人々に奉仕するより、人々を支配する道を探る政府は、情報を支配し続けることを切望しているのだ。
■ソーシャル・アクション・フォーラム
・ひとつの、処理しやすく、身近な問題を訴えるために三人くらいの人がいる
・フォーラムを始めたら、今年の行動計画を定義する
貧困のない世界を創る ムハマド・ユヌス 猪熊弘子 早川書房 2008-10-24 by G-Tools |