「発明家に学ぶ発想戦略」は、タイトル通り発明の歴史を考察されているエヴァン・シュワルツ氏の書籍です。
7月に献本を頂いていたので、遅ればせながら書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
この書籍を書いたエヴァン・シュワルツ氏は、「イノベーションのジレンマ」や「明日は誰のものか」で有名なクレイトン・クリステンセンが創設した、イノベーションを中心とした経営コンサルティングを行なうグローバル企業イノサイトのディレクター。
この本では、イノベーションの要といえるインベンション(発明)がテーマになっています。
この本に出てくるのは、エジソンやグーテンベルク、ヘンリー・フォードなど、歴史上の偉人と呼ばれるような発明家の数々。
そういう意味では、従来のイノベーションのジレンマのシリーズとは全く違う趣の本なのですが、この本を読むと、時代の発明家について自分がいかに知っているつもりで全く理解していなかったかを思い知らされます。
発明家というと、いかにもその技術を一番最初に発明した人だと思い込んでしまうんですが、実はエジソンはより何ヶ月も前に白熱電球を発明した人はいたし、ヘンリー・フォードは自動車の普及に貢献した人だけど、最初に自動車を発明した人では無いんですよね。
実は発明家と後世に呼ばれるような業績を残した人は、単なる技術を開発した研究者ではなく、その技術をいかに多くの人に使ってもらうかというシステムを考えた事業家であるということに、個人的には後頭部を殴られるような衝撃を受けました。
発明というものの本質を俯瞰的に考えてみたい方には参考になる点が多々ある本だと思います。
もちろん「イノベーションのジレンマ」をあわせて読むのもお薦めです。
【読書メモ】
■発明の4タイプ
・すでに利用されているものに欠点を見つけて改良するタイプ
・人が気づいていない可能性を見つけて生まれたもの
・大きな需要がありながら、それまでの試みでうまくいかなかった問題に斬新なアプローチで取り組んで実現するタイプ
・以上の三つのタイプの発明が、発明した当人の想像以上に幅広い用途に使われるようになる場合
■新しい解決策を生むパターン認識の鍵は、すでに機能しているものに着目し、その仕組みを学んで応用するか、新しい方を完成させることにある。
それが若い頃からエジソンが身に付けていた発想の習慣である。
■周囲に見いだされるアナロジーは発明家の発想のエネルギーになる。問題の解決に、過去の類似した経験や知識を利用するのがアナロジーの応用である。
■グーテンベルクの活版印刷という革命的な発明には、二つのアナロジーが応用されている
・手紙の封蝋に図案や文字を押印する印章。印章を一列に並べれば、組み替えて何度でも使用できる
・箱にぎっしり敷き詰めたぶどうをつぶして果汁を搾るのに手回し式の圧搾機が使われていた。
■王子様に出会うにはたくさんのカエルにキスしなくてはならない
できるだけ多くのアイデアを引き出し、できるだけ早く試してよくないものをふるい落とし、勝ち残った良いアイデアを手にすること
■トーマス・エジソンはシステムの見地から発明を考えたために、ジョゼフ・スワンよりも後世に名を残した。
スワンはエジソンの何ヶ月も前に、イギリスのニューカッスルで白熱電球の実演をして見せている。
だが、エジソンの最も称えるべき点は、白熱電球を最終目標にせず、そこをはじまりとしてさらに大規模な発電設備と都市から都市へ伸びる送電設備が必要になるのを見越していたことだ。
■ガス灯業界は法廷のほかあらゆる方面でエジソンと闘った。それは生やさしい闘いではなかった。
事実、スワンがその争いに敗れたために、イギリスはその後30年近くガス灯を守りつづけたのである。
■ヘンリー・フォードが世に現れたとき、すでに多くの発明家が自動車を完成させていた。1885年にカール・ベンツは最初の自動車を発明し、のちに彼のビジネスパートナーになったゴットフリート・ダイムラーは同じ年にオートバイ第一号を制作した。
■彼が自動車メーカーとして最初に成功したのは、最速の車を作ったからではない。複雑多岐な自動車製造の工程をすべて組み入れたシステムを発明したからなのである。
■1900年から1906年にかけて、アメリカだけで500を超える自動車会社が誕生した。フォードの車も数多いメーカーの一つがつくるものにすぎなかった。だが、T型フォードの設計に着手すると同時に、フォードはどこよりも低価格で大量かつ迅速に生産する方法を考え始めた。
「わたしの考えるシステムは、大勢の人のもとに車を届けるためのものだ」とフォードははっきり述べている。
発明家に学ぶ発想戦略 イノベーションを導くひらめきとブレークスルー (Harvard Business School Press) エヴァン・I・シュワルツ 山形 浩生 翔泳社 2013-07-12 by G-Tools |