ウェブはバカと暇人のもの (中川淳一郎)

4334035027 「ウェブはバカと暇人のもの」は、タイトル通りインターネットの限界について考察している本です。
 正直、タイトルの煽りがきついので、あまり読む気にならなかったのですが、先日の梅田さんのインタビューにも出てきていたのもあり、反対意見も知らずに「日本のウェブの残念度を下げるために、私たちができそうな7つのこと+α 」のような楽観論ばかり書くのも問題な気がしたので買って読んでみました。
 著者自身が冒頭で言及しているように、基本的にはこの本は、梅田さんの「ウェブ進化論」、佐々木さんの「グーグル」、岡田さんの「ネットで人生、変わりましたか?」あたりへのアンチテーゼという位置づけにある本です。
 この本を書かれた中川淳一郎さんは、元博報堂出身で、現在はニュースサイトの編集者をされている方。
 そう言う意味では、博報堂側でテレビの影響力も体験しており、ニュースサイトというネットの現場での実体験もされているわけで、タイトルの煽り具合に比べると、書籍の内容自体は両方の経験を元に冷静にネットの限界をしっかり分析している本という印象です。
 テレビの影響力がまだまだ最強であるという点や、ネットの課題や限界など、参考になる点は多いです。
 ただ、個人的にこの本を読んで残念だなと思ったのは、この本がマスメディアを置き換えるものとしてのネットの優劣を議論の土台としている点。
 書籍の副題には「ネット敗北宣言」と書かれていますが、要は「マス」に対する影響力においてはネットはマスメディアにかなわない、という敗北宣言であり、マスメディア vs ネットという土台からくる二者択一の議論のように思います。
 
 特に後半部分では、ネットよりもリアルの方がすごいという主張が繰り返し登場してくるのですが、利用者からするとネットもリアルも一つのツールでしかないわけで、ネットもリアルも当然組み合わせて使うから意味があるわけで、ネットとリアルを二者択一の選択肢として描く時点でもったいないなと思ってしまいます。
 
 このあたりは、著者の中川さんの仕事がニュースメディアの編集者という、単純にメディアの影響力でマスメディアと二者択一で比較されやすい立ち位置にあるということも影響しているのかもしれません。
(本の方では言及されていないのですが、この辺の記事を見る限り、中川淳一郎さんが担当されているニュースサイトというのはアメーバニュースのようなので、ターゲットとしている読者層がマスに近いことを考えると、余計にマスメディアと単純比較されがちな立ち位置な気がします。)
 たしかにメディアの世界においては、良い意味でも悪い意味でも、ネットの影響力が誇大に吹聴される傾向にあり、そう言う意味では著者の主張は実にまっとうで、「ネットだけを利用する」という行為と「リアル(ネット以外)だけを利用する」という選択肢の比較として本書を読むと、納得できる点が多々あります。
 実際、大規模に話題を引き起こす力においては、ネットはテレビにはかないませんし、ネットの特性を考えるとその傾向は当分かわることはないでしょう。
 ただ、一方でマスに到達しなくても良いと思っている人や、そもそもテレビのようなマスの手段を使えなかった人たちにとって、ネットは非常に便利なツールであり、それこそがネットの大きな価値であると思うので、そこを無視して単純に影響力の比較とか勝ち負けを議論するのもどうかなぁという気がします。
 そう言う意味では、ネットもマスメディアも、もともと全く目的やメリットが違う手段なので、そろそろ単純比較すること自体をやめて、「(私たち個人個人が)ネットをどのように活用するべきなのか」を議論した方がいいという話なのかなぁ、という印象をこの本を読んで強く受けました。
 ネットが全ての問題を解決してくれる魔法のツールと思ってしまいがちな人には、参考になる点がある本だと思います。
【読者メモ】
■断言しよう。凡庸な人間はネットを使うことによっていきなり優秀になるわけではないし、バカもネットを使うことによって世間にとって有用な才能を突然開花させ、世の中によいものをもたらすわけでもない。
■ネットには「怒りたい人」「吊し上げの対象を血眼で探す人」が多いので、あまりネットの世界が善意にあふれているとは思わないほうがいい。
 さらに、そういった人びとは匿名の個人として発言し、組織を背負っていないがゆえに、「絶対に勝てる論争」を高みから仕掛けてくる。クレームを受ける側は組織を背負っているため、逆ギレもできない。完全なるハンディキャップマッチに巻き込まれてしまっているのだ。


■ネットで叩かれやすい10項目
・上からものを言う、主張が見える
・頑張っている人をおちょくる、特定個人をバカにする
・既存マスコミが過熱報道していることに便乗する
・書き手の「顔」が見える
・反日的な発言をする
・誰かの手間をかけることをやる
・社会的コンセンサスなしに叩く
・強い調子のことばを使う
・誰かが好きなものを批判・酷評する
・部外者が勝手に何かを言う
■(ネットにヘビーに書き込む人の)決定的な特徴は「暇人である」ということだ。
 書き込み内容や時刻から類推するに、無職やニート、フリーター、学生、専業主婦が多いと推測できる。
■なぜ、完成された大御所はブログをやらないのか?
 その理由は簡単で、「やる必要がないし、やるインセンティブがない」からである。
■日々ネットで構築されていく一般人による「日常の報告・雑感」。これの価値は「暇つぶし」にある。質としては、ゲームをしたり立ち読みをしたりするのとあまり変わりはない。
 その一方、年収が高く、リアルな世界で忙しい人たちも当然ネットを使いこなすが、それはあくまで情報収集のためである。暇つぶしではなく、明確な目的があるのだ。
■無敵の人 (西村博之氏)
 「もともと無職で社会的信用が皆無」であり、逮捕や刑罰を「リスクだと思わない人たち」のことである。
■ネットでウケるネタ
・話題にしたい部分があるもの、突っ込みどころがあるもの
・身近であるもの
・非常に意見が鋭いもの
・テレビで一度紹介されているもの、テレビで人気があるもの、ヤフートピックスが選ぶもの
・モラルを問うもの
・芸能人関係のもの
・エロ
・美人
・時事性があるもの
■最強メディアは地上波テレビ、彼らが最強である時代はしばらく続く
■(インターネットと地上波テレビの)両方に共通するのは、テレビは受信料、ネットはプロバイダとの契約料さえ払えば、あとはどれだけ見ようが無料な点だ。雑誌・新聞は、見ようと思ったらその度に買わなくてはならない。
■テレビ局側からのネットに対する拒否反応はすさまじい。(中略)あくまでもネットはテレビの視聴時間を減らす悪と考えられており、その鬱憤を晴らすかのごとく、ネット関連の犯罪が起きると「ネット社会の闇」をことのほか強調し、ネットを悪者にしようとする。
■ネットで上手くいくための5つの結論
・ネットとユーザーに関する性善説・幻想・過度な期待を捨てるべき
・ネガティブな書き込みをスルーする耐性が必要
・ネットではクリックされてナンボである。そのために、企業にはB級なネタを発信する開き直りというか割り切りが必要
・ネットでブランド構築はやりづらいことを理解する
・ネットでブレイクできる商品はあくまでモノが良いものである。小手先のネットプロモーションで何とかしようとするのではなく、本来の企業活動を頑張るべき
■ネットを使ったプロモーションを展開すべきかどうかの判断は、まずは自分がニュースサイトの編集者になったつもりで、タイトルをつけられるかどうかを考えたほうが良い
■私がふだんネットプロモーションで行う提案は、「ヤフートピックスに取り上げられる方法(ただし100%の保証はできない)」というシンプルなものである。
■企業は「ネットで商品が語られまくり、自社ファンが自然に増える」と考えるのはやめよう。一般の人は「ネットがあれば、私の才能を知り、私のことを見出してくれる人が増える」と考えるのはやめよう。

4334035027 ウェブはバカと暇人のもの (光文社新書)
中川淳一郎
光文社 2009-04-17

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“ウェブはバカと暇人のもの (中川淳一郎)” への1件のフィードバック

  1. 身も蓋もないから、今読んだ方がよいかも:ウェブはバカと暇人のもの

    梅田さんのインタビューで見かけたので買ってみた。
    ウェブはバカと暇人のもの (光文社新書)中川淳一郎光文社 2009-04-17売り上げランキング :…

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