電通とリクルート (山本直人) を読むと、日本の広告やメディアビジネスの今後を考えるヒントが見つかるかも。

4106103982 「電通とリクルート」は、「マーケターを笑うな」など、多数の著書で知られる山本直人さんが書かれた書籍です。
 献本を頂いたので、書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
 この本では、電通とリクルートという、日本の広告やメディアビジネスを語る上で、必ずといって良いほど話題に出てくる二つの巨人の生い立ちや文化を深掘りすることで、日本の広告業界・メディア業界についての考察を行っています。
 電通によるFacebookの広告枠の買い切りや、リクルートのポンパレによるグルーポンジャパンとの熾烈な市場獲得競争など、ネット業界にも大きな影響を与えている両社ですが、この本を読むと実は二社の文化は対極にあり、この両社が象徴とするビジネスの形態の変化と日本の業界の変化が密接に結びついていることが見えてきます。
 最近の日本では、何でもかんでも海外と日本が違うことを「ガラパゴス」と表現することが多いような気がしますが、ある意味広告業界やメディア業界も、そう言う意味では典型的なガラパゴス状態です。
 ただ、その国の産業の形態が過去の歴史によって形作られるというのは、ある意味当たり前の話。
 そう言う意味では、今を生きる私たちは、こうやって日本の過去の歴史や生い立ちを理解することで、世界における常識が日本においてどのように吸収されていくのか、変化していくのかを、全く別の視点から考える必要があるのかなぁと改めて感じます。
 電通とリクルートという会社が気にはなるけど、どういう会社なのかあまり知らないという方には、参考になる点が多々ある本だと思います。
 ちなみに、さらに過去に遡りたい方は「正力松太郎 「巨怪伝」」や、「この人 吉田秀雄」、「欲望のメディア (猪瀬 直樹)」あたりもお勧めです。
【読書メモ】
■電通は、いわゆる新聞やテレビなどのマス・メディアを通じた広告ビジネスの象徴である。一方、リクルートは企業からの情報を編集して人々に伝えるために、新たなメディアを自ら開発した。
■発散志向広告と収束志向広告
前者の発散志向広告の仕組みを築きリードしてきた企業が電通であり、後者の収束志向広告のパイオニアがリクルートなのである。そして人々は「発散」された情報に反応する一方、情報の「収束」を求めていった。


■「金曜日はワイン」「日本を再発見」という意味の書き換えを人々が受け入れることで消費につながるという構造が70年代から段々とできつつあった。そして広告による意味の書き換えがもっとも効果をあげたのが1980年代だったと言える。
■名刺交換、というものの普通の人は「名刺をわたす」ことに神経を使う。ところが、リクルート出身者からは「名刺をいただく」という気持ちが強く伝わってくるのである。
 いただいた名刺が、彼らにとってはビジネスの種である。もらった名刺はやがて収益に変えなくてはいけない。というより、変え続けたからこそリクルートの成長が実現したのだろう。
■リクルートが毛細管の拡張と維持を最大の経営資源としていったのに対して、電通は元栓を押さえることで収益の基盤を確立した。
■情報誌の未来(1983年 リクルート社員)
・市場の自由化・オープン化機能
・商品の品質向上化機能
・資源の節約機能
■自由主義の世界では日本の「大衆=中流=国民」という図式が例外的だったともいえるのだ。
■自動車はマス広告と相性がよく、自動車産業の発展と転機は、マス・メディアのそれとちょうど一致する。20世紀は産業とマス・メディアの蜜月の時代であった。
■94年の一連の広告は「ありそうな現実感=リアリティ」を描くよりも、「そこにある現実=リアル」を描くようになった
■先の購買ガイダンス型や、カローラIIの広告が同じ年に登場してきたことは、後から見ると必然的に思える。1994年というのは、境界線をまたごうとしていた時代なのだ。
■人々がモノを買うときに幻想を抱くこともなく「こんなものだよ」と見切りをつければ、広告はたしかにガイダンス化せざるを得ない。
■広告というのは他の情報とは識別されていた。しかし、情報誌のコンテンツに接するときにはその回路が同じようには働かない。仕組みとしては「広告」だと思っていても、それはより広い意味で、「情報」として人々は受け取る。
■(ネットの)書き込みを観察していて気づいたことがある。
 それは、自分の体験を述べるというより、事前の期待値との「答え合わせ」をしている表現がとても多いということである。
■自分の行動を、常に答え合わせしないではいられない。消費自体によって喜びを得るのではなく、情報との合一性によって安堵を見出しているようだ。
■人々の情報接触への自由度は確かに上がった。しかし、多くの人々が情報の中をさまよい、「自分は損をしているのではないか」という不安を抱いてしまう恐れはないだろうか。

4106103982 電通とリクルート (新潮新書)
山本 直人
新潮社 2010-12

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