「次世代コミュニケーションプランニング」は、「フェイスブックインパクト」や「次世代メディアマーケティング」の監修もされていた高広伯彦さんの書籍です。
献本を頂いたので、書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
昨日丁度、この書籍の出版記念パーティーが開催されて光栄にも締めの挨拶をさせて頂き、その際にも同様の話をしたのですが、この本には高広さんの広告やコミュニケーションプランニングに対する姿勢や考え方のすべてが入っている本だと思います。
過去にも高広さんは、「フェイスブックインパクト」のような共著本や、「デジマーケティング(日本版のタイトルは「次世代メディアマーケティング」)」の監訳などをされていたので、てっきり単著も複数出されている印象があったのですが、実は高広さんが一冊一人で書き上げたのは今回が始めてなんですよね。
そう思って改めてこの本を読むと、なるほど高広さんはこの本を書けるようになるまで、単著を書くのを我慢していたんだろうな、と思えてきます。
それほど、この本には私が高広さんに初めてお会いしてから、機会がある毎に教えてもらっていた様々な要素が、ぎっしりと体系的に詰まっている本です。
高広さんには先日AMNで主催したソーシャルメディアサミットにもパネリストとして登壇頂きましたが、ツイッター上での辻斬り説法的なキャラクターが印象に残っている方と、広告業界における実績の方が詳しい方と、人によって印象が大きく異なる人だと思っています。
ただ、実は高広さんがツイッター上で、辻斬りをする形になってしまうのは、その広告への愛の深さと、日本語の言葉の定義に対する繊細さが背景にあるということが、この本を読むと良くわかるはずです。
広告業界やPR業界向けの本ではありますが、マーケティングやコミュニケーションに携わるすべての方に参考になる点が多々ある本だと思います。
【読書メモ】
■広告主から良く聞く話
・従来の広告が効かなくなった気がする
・かけられる広告費が以前より少なくなった
■広告業界にいると無自覚にも「広告媒体を買う=広告主」となりがちなのだが、実際には、まったく広告媒体を使わない広告主というのも考えられるわけだ。
とすれば、実はこの領域にはとんでもないマーケットが存在するのではないか?
■クライアントのいうことには”オーダー”と”オファー”の2つしかない
・オーダーっていうのは、広告主の方でも社内でいろいろ決まっていることだったりするので、そのまま良い形に実現してくれればいい
・オファーっていうのは、広告主のほうでもまだ明確に決まっておらず、頭の中でモヤモヤしていることで、そのモヤモヤの整理も含めて一緒に解決してくれるかどうか
■マッカーシーの「4P」とラウターボーンの「4C」
・Product → Cutomer value
・Price → Customer cost
・Place → Convenience
・Promotion→ Communication
■今までの「広告」とは、商品やサービスを消費者に「伝える」ための技術・作法
「コミュニケーションプランニング」とは、商品やサービスと消費者が「会話する」ための技術・作法である
■メディアそのものもメッセージである(マーシャル・マクルーハン)
https://www.historica-dominion.ca/content/heritage-minutes/marshall-mcluhan
■メディアは人間の身体を拡張する(マーシャル・マクルーハン)
■ポケベルの考察
・ビジネスマンの「束縛のメディア」に対し、学校などからの「解放のメディア」として使われた
・事業者側が想定していなかった使われ方が生まれた
・電話とディスプレイ方式の組み合わせで使われた
・ポケベル外でやり取りされていたメッセージが「ポケベル外」での日常的なコミュニケーションを参照していること
■広告業界のプランナーが頭の中に作る「メディアリスト」は、広告媒体化が可能なもの、ないしはパブリシティ的な露出が可能なものである。
(中略)結果として、代理店やレップのプランナーにとっては「存在しない」メディアが多数「存在する」はめになっているわけだ。そしてその多くは、ユーザーが作るコミュニティのようなメディアであることが多い。
■消費者に聞いたらなんでもわかるだろう症候群
ヒアリング万能と考える人は意外に少なくない
■データマイニング的手法で、消費者の言葉からヒントを見つけ出そうとするやり方もある。しかしながら「消費者がしゃべったもの」からヒントをひっぱりだそうとする試みは、消費者の言語感覚に左右されるので、「言葉で表されるもの」の中でしか発見できない。
■商品のサービス化
製品を製品だけで提供するのではなく、それに無形物であるサービスを加えることによって、企業からは「オファー」というものが提供されるようになる。一方、消費者はその対価として、個人の情報やブランドへの感情を提供するようになり、新たな「交換」が生まれるという。
■超巨大図書館であったものが、人と人、コンテンツとコンテンツがつながる巨大な情報のパイプラインとなる。、
■ソーシャルメディアは、それらが単にデジタル化された交遊録というだけでなく、コンテンツとコンテンツが結びつき、その結びつきが人と人を結びつけているという本質的な意味合いを理解しておかねばならない。
■Making is Connecting(デビッド・ガントレット)
金銭的インセンティブがないにもかかわらず、ユーザーがコンテンツ生産を行う理由
■よく「ユーザー巻き込み型企画」という話があるが、実際にはネットの世界では「企業が巻き込まれ」ている事例が多く出てきているのであって、それに対して企業がどういうふうに絡んでいくのか、これからはそこが重要になるだろう。
■プリフィックス型とオプティマイゼーション型
・プリフィックス型:予算のすべての使い道を決めたうえで施策を進めていく
・オプティマイゼーション型:予算の内の10%から20%をユーザーが起こすインターネット上のアクティビティへ対応する資金として何かのときのために残しておく
■本当に消費者情報流通パイプラインをうまく使うのであれば、単に声の大きい人を使うだけでなく、集団の中で横の拡がりを持たせるようなプランニングをしなければ、それは「クチコミマーケティング」とはいえないのだ。
■商品・サービス自体が持つ2種類のクチコミ能力
・商品・サービスそのものが人目に触れやすい
・他人を巻き込むと利便性が増す
■「クチコミを企画しよう」とすると、どうしても広告・プロモーションの企みと考えられやすいが、本当はまず「商品・サービスそのものによるクチコミの企み」というものから考えないといけない。
■「シカケ×シクミ」という公式
・シカケとは「人に伝えたくなるネタ・情報」
・シクミとは「人に伝えやすい機能・ツール」
■クーポンやポイントで人を釣って他の人に知らせてもらおうというものは、私個人としては「ユーザーをバカにしている」企画だと思っている。
それよりも、こちらの企てに参加してくれた人々が「オーガニック」に広めてくれるようなシカケとシクミをとことん考えること、それが正しいクチコミマーケティングではないだろうか。
■PPPのような仕組みは、欧米では「消費者のクチコミを買う」ということで、「邪悪なクチコミマーケティングの一つとして取り上げられる。
この手法への批判は2つの意味で起こる。1つは「広告枠」のように買わないとクチコミが拡がらないようなキャンペーンをやっているのかという、そもそもマーケターの資質が問われる問題として。そして、もう1つは、消費者のクチコミを直接的に金銭で購入するということそのものへの嫌悪だ。
■「デ・マーケティング」
目指すべき顧客以外には売らない、目指すべき顧客だけしか入れない、という戦術として実施されることがある
■パーセプションチェンジ
ターゲット消費者が持っているパーセプションが、本来持ってほしいものと違うのであればそれを変えるための作業
■アカウントプランニングとは、消費者調査によって「インサイト」を導き出す作業のことを指す
■コンテクストプランニングにおける4つのコンテクスト
・Consumer Context:働いている女性が増えており、家庭内でもリラックスできる空間のニーズが高まる
・Public Context:住空間に、男性用の部屋と子供用の部屋はある。しかし女性用の部屋はない。
・Industry Context:洗面化粧室というのものを女性用の空間としているが、実質的にそれらは部屋ではなく、女性に使われていない
・Brand Context:大和ハウス工業は日本で初めての子供部屋であるミゼットハウスを売り出した企業である
■私は、博報堂、電通、Googleと3つの会社を経てきたが、いずれにおいても「広告と業界への貢献」ということを、どこか考えながら仕事をしてきたと思う。
次世代コミュニケーションプランニング 高広 伯彦 ソフトバンククリエイティブ 2012-03-30 by G-Tools |