コトラーのイノベーション・マーケティング (フィリップ・コトラー)

4798122343 「コトラーのイノベーション・マーケティング」は、「コトラーのマーケティング思考法」や「マーケティング3.0」などの書籍でも知られるフィリップ・コトラーが、イノベーションについて考察している書籍です。
 献本を頂いていたのですが、読書メモを公開していなかったので、遅ればせながら書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
 この本では、マーケティングの大家として知られるフィリップ・コトラーが正面からイノベーションのあり方について考察をしています。
  
 書籍のテーマとして冒頭に出てくるのがラディカル・イノベーション。
 いわゆるイノベーションのジレンマに出てくる破壊的イノベーションに対するフィリップ・コトラーなりの答えという本であると感じます。
 「マーケティング」と「イノベーション」は、ピーター・ドラッカーも企業が持つべき機能としての二本柱にあげている、企業の経営において非常に中心的な役割を果たす概念。
 そういう意味では、片方の柱の大家であるコトラーが、イノベーションについて言及する書籍を出すというのはある意味当然と言えるのかもしれませんが、イノベーション側の大家である「イノベーションのジレンマ」のクレイトン・クリステンセンや「キャズム」で有名なジェフリー・ムーアの主張と似ているようで違う視点が多くあるのがなかなか興味深いところです。
 先日ご紹介したクレイトン・クリステンセンの「イノベーションのDNA」やジェフリー・ムーアの「エスケープ・ベロシティ」あたりと読み比べてみるのもお勧めです。
 
【読書メモ】
■ラディカル・イノベーションはすべてをかき消すほどの衝撃を与えるが、それだけがイノベーションなのではない
■いますぐラディカル・イノベーションを創出しようなどとは考えないことだ。むしろイノベーションに対する認識を改め、長い間に渡って積み重ねたイノベーティブな一歩一歩が、うまくすればやがて大きなイノベーションになると考えることが、この問題を解決する
■時代はクローズド・イノベーションから、協働的イノベーションを経て、いまやオープン・イノベーション時代なのだ
・クローズド・イノベーション:研究室や研究部門だけに限定される
・協働的イノベーション:組織の全員がアイデアの提供を奨励される
・オープン・イノベーション:組織外の人材もイノベーション・プロセスに関わる


■イノベーションを起こす際の役割
・開始:アクティベータ:段階や局面にとらわれずに、イノベーション・プロセスを始動させる人たち
・調査:ブラウザ:情報収集を専門とする人たち
・着想:クリエータ:グループのためにアイデアを生み出す人たち
・考案:デベロッパ:アイデアを製品・サービスに落とし込む人たち
・実行:エグゼキュータ:導入と実行にまつわるすべてを引き受ける
・後押し:ファシリテータ:イノベーション・プロセスの進捗に応じて、新しい支出や必要な投資に承認を与える
■プロセスの有効性を決定的に左右する三つの要件
・イノベーションの枠組み
・イノベーション・ガイドライン
・イノベーション・チェックリスト
■イノベーションレベル
・レベル1:ビジネスモデル・イノベーション
・レベル2:プロセス・イノベーション
・レベル3:市場イノベーション
・レベル4:製品またはサービスのイノベーション
■イノベーション・ガイドラインの例
・新製品は最低でも100万ドルの売上を上げること
・導入日から三年以内に黒字化すること
・社内の既存ブランドの下で導入しなくてはならない
・イノベーション・プロセスは18ヶ月を越えてはいけない
■イノベーション・チェックリストの例
・プロジェクトは本当に必要だろうか
・プロジェクトが完了したら顧客にどのような便益を与えるだろうか
・プロジェクトは何らかの形で従業員または会社全体の役に立つだろうか
・プロジェクトの作業は、事業運営を阻害し、事業目標に影響をおよぼすことがないだろうか
・プロジェクトの最終目標は何か、またどの程度現実的か
・全体の概算時間はどれくらいか、またどのようにして進捗を測るのか
・プロジェクトは費用対効果が高いだろうか、また費用便益上の強みは何か
■情報収集のための新しい手法
・インターネット・モニタリング
・エスノグラフィー
・ジオロケーション
■創造性の仕組み
・フォーカスを選ぶ
・置き換える
・連結する
■主観的評価
・売上の源泉
・インサイト
・基本便益
・リーズン・ホワイ
・最終便益
・社会動向
■デベロッパの役割は技術に限定されない。アイデアにとっては技術開発と同じくらい、マーケティング開発も大切なのだ。
■イノベーションの投入を組織の内部で行うか、外部で行うか
・イノベーションの破壊度
・イノベーションに期待される長期的軌跡
・社内の障壁
・節減できるコスト
・資金力
■ノミナル・グループ手法
・導入:リーダーが会合の目的を説明する
・アイデア:役に立ちそうなアイデアや、問題の解決策を書き出す
・アイデア発表:すべてのアイデアをリーダーが発表する
・分析:アイデアを分析するが、まだ突っ込んだ議論は行わない
    最後に全員が匿名で投票する
・ランキング:得票数が少ないアイデアを除外し、人気が高いモノをランク付けする
       引き続き議論し、最後にもう一度投票を行って一つに決定する
・解決策:全員で選んだ解決策をさらに詰めて、詳細なアクションプランを打ち出す。
■二つの攻撃戦略
・負けないための戦略:損失を最小限に抑えることに主眼を置く
・勝つための戦略:リスク志向性と攻撃性を軸とし、損失覚悟で大きな潜在利益の実現を狙う
■評価指標の例
・経済的評価指標
 ・新製品の売上高
 ・新製品からの利益
 ・新製品以外のイノベーションがもたらした売上高
 ・新製品以外のイノベーションがもたらした利益
 ・イノベーションによる削減コスト
 ・イノベーションのROI
・強度
 ・特許取得件数
 ・すべてのイノベーションの数
 ・ブランド数
 ・一年間に創出されるアイデアの数
 ・パイプライン中のイノベーション・プロジェクトの数
 ・進行中のイノベーション・プロジェクトの数
 ・研究開発費
・有効性
 ・新製品の成功率
 ・市場投入までの時間
 ・プロジェクト一件あたりの平均投資額
 ・成功したプロジェクト一件あたりの平均的投資インパクト
 ・却下されたアイデアやプロジェクト一件あたりの平均支出額
 ・業界トップとしての年数
・文化
 ・アイデアを生み出す従業員の割合
 ・アイデアを評価する従業員の割合
 ・従業員一人あたりの年間アイデア数
 ・イノベーションに費やされる時間の割合
 ・持続的にイノベーションを行う部署の数
 ・リスク志向性
 

4798122343 コトラーのイノベーション・マーケティング
フィリップ・コトラー フェルナンド・トリアス・デ・ペス 櫻井 祐子
翔泳社 2011-09-16

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